第2話 佐倉ほのかと俺の関係
季節は春だ。
嫌いなヤツや、気不味いあの娘と離れ離れになれる、そんな素晴らしい季節である。
地獄のような季節?はん。
コレが目に入らぬかぁー!と、先ほどのラブレターを思わず掲げてしまいそうになってしまった。
ま、流石にそんな事はしないがな。
いそいそとお尻のポケットに手紙をしまい、先ほどの足取りが嘘のような軽やかな足取りで、先ほどの表情とはうってかわって明るい表情で、下駄箱から屋上へと向かって歩いて行く。
ラブレターだよな?
果たし状…とかではないですよね?
念の為、先ほどの紙を確認しておこうではないかと、お尻ポケットに入れた紙を取り出し、周りに誰もいない事を確認してから手紙を見直した。
屋上で待ってます。
当然、書かれていたのはこの一言だけである。
キ、キキ、キターーー!!\( ˆoˆ )/!!
オーレー、オレオレ、オレー♬
いや、落ち着けオレ!オーレ♬
右手を天に向かって伸ばしている場合ではない。鼻の穴をプクっと膨らませている場合ではない。勿論、地球に生まれて良かったぁ〜などと言っている場合ではない。
…落ちつけ!とにかく落ちつくんだ俺。
すー。はー。と、小さく深呼吸をして、何とか気持ちを落ち着かせる。
今にも小躍りしてしまいそうな、そんな気分であった。
冷静に行け!こういう時こそクールにだ。
本当にラブレターなのかどうか、それは出した本人または、聞いた人にしか分からない事なのだから、最後まで気を引き締めていくんだ!と自分を叱咤する。
そもそも屋上で待っている=ラブレターなどという考えは間違っているだろうか?
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていないよな?
いやいや、落ち着け!ダンまちを思い出している場合ではない。
すー。はー。
気持ちを落ち着かせたところで、再び紙を確認し直しておこうではないか。
再度、手紙を取り出して内容を確認する。
屋上で待ってます。
当然、何度読み返してみても、書かれている内容は同じだ。
…ん?ア、アレ?大丈夫…だよな?
気持ちを落ち着かせたからか、見たのが三回目だからかは分からないが、いつ、どこで、誰という、いわいる3Wが書かれていない事に気付いてしまった。
大丈夫…だよな?
いつと書かれていない事から、今日ではない可能性があり、どこでと書かれていない事から、学校の屋上ではないのかもしれない。
おい、おい、マジか…。
もしかしたらこのラブレターは、からかい上手の柏木さんによるトラップなのかもしれない。
仮にそうだとするならば、俺は二期を絶対観ないからな!絶対に、絶対にだ!!
いやいや、落ち着け、冷静に!こういう時こそクールにだ!
そもそもからかい上手の柏木さんは、そんな話しではないし、ウチのクラスに柏木さんはいない。
うむ。放送が楽しみである♡
待てよ?
今度は、上着のポケットにしまった封筒を取り出し、急いで裏面を確認する。
普通、手紙の封筒という物には、封筒の裏に名前が書いてある物である。
う、うむ…書いていない。
さて、どうしたものか。
いや、答えなど初めから決まっているだろ?
考えるまでもない。
とりあえず屋上に行ってみようではないか。
そう決心した俺は、軽やかな足取りで、屋上へと向かうのであった。
ーーーーーーーーーーーーーー
一階は一年の教室。
二階は二年の教室。
三階は三年の教室。
四階には色々な部がずらりと並び、その上が屋上である。
健康第一!という教訓なのか、子供は風の子が教訓なのか、または、経費削減を掲げているからか、エレベーターなど存在しない。
そんな中、一歩、二歩と、長い階段を登って行く。
普通であれば苦である階段なのだが、今の俺にとっては、苦でも何でもない。
あと少し。
あと少しで俺は…。
そんな気持ちを抱きながら、屋上へと繋がる扉を目指した。
屋上へと繋がる扉の前に到着した俺は、すー。はー。と、深呼吸をして、息を整える。
何故なら、はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇと、息遣いが荒いままの登場…な?みっともなく見えてしまうだろ?
さて…天国か地獄か。
ゴクリと唾を飲み込みながら意を決した俺は、屋上へと続く扉のドアを開けるのであった。
ーーーーーーーーーーーー
屋上はいたってシンプルな場所である。
扉を開けた前方、左右には、生徒が座れるように用意された椅子があり、椅子の周りには花壇が置いてある。そんなシンプルな屋上だ。
この屋上で告白すれば必ず上手くいく。そんな話しを俺は聞いた事がない。
もしもそんな話しがあれば、この手紙がラブレターだという可能性がグンとあがるんだけどな。
では、何故ここなのか。
単純に、この時間なら人があまりいないからだと思われる。
そんな屋上の扉を優しく締め、数歩ほど歩く俺だったが、キョロキョロするようなマネはしなかった。
何故ならそれではまるで、生まれて初めてラブレターをもらい、期待に胸を躍らせてやって来たヤツ。みたいに見えてしまうからである。
あくまで冷静に、クールにだ!
ちょっとアイスを買いにコンビニにな…ぐらいの態度でだ。俺は屋上の中央へと歩いて行く。
「………ん?」
さりげな〜くチラチラと辺りを見渡していると、自殺防止用の高い金網の前で、一人の女生徒が立っている事に気が付いた。
夕焼けに染まる空を背景に、ポツンとたたずむ 一人の女生徒。
腰まである黒くて長いサラサラした髪が、春のそよ風と共にユラユラと左右に揺れる。
普通の人であれば、ヨッシャーー!と、喜ぶところなのだろうが、そうはならなかった。
いや、俺が普通の人じゃないからではないからな。
何故なら屋上にいたのは、自分が良く知る人物、佐倉 ほのかだったからである。
「………」
相手もコチラに気付いたのか、チラリと(上目づかいで)コチラを見てきた。
「………」
うつむいていた顔を上げる事はなく、チラリとコチラを見てくる佐倉。
俺が喜ばなかったのは、んだよ、佐倉かよ…とか、そういった気持ちがあったからではない。
なら何故?と、聞かれたら、この手紙の主が佐倉ほのかではないと、俺には分かっていたからだ。
何故なら佐倉ほのかと桐原達也の関係とは、そういった関係なのである。
さて、どうしたものか?
一応、顔見知りなのだから、よ!とか、うっす!とか、声をかけるべきなのだろうか?
しかしだ。
自分はこれから告白されるかもしれないこの状況で、佐倉ほのかと喋っているところを、これからやってくるであろう告白相手に見られでもしたら…うむ。考えたくもない。
さ、佐倉さんとそういう関係だったのね!などと、これからやって来るであろう相手に、勘違いをされてはたまったもんではない。
ここは、話しかけてくるなオーラを発揮するべきだろう。
もしくは、ぼっちスキルを発動するべきか?と言っても、既に気付かれてしまっているか…よし。
とりあえず、中央に立っていると目立ってしまう為、場所を変えようではないか。
俺はそう考え、扉から見て正面、佐倉から見て右側の金網へと移動する。
ーーーーーーーーーーーー
部活帰りの生徒の声を耳にしながら、ジッと扉をみつめる。
確かに手紙には、いつとは書かれていなかった。
今日ではないのかもしれないし、放課後ではないのかもしれない。
…もしかして帰ったのか?
だとすれば、浅倉冬美の長話しの所為で、俺の青春が失われてしまったということになる。
ちきしょう!どうしてくれんだよコンチキショー!と、心の中で呟きながら、携帯を開いて時間を確認した。
時刻は18時だ。
どうする…というより、佐倉は何故ここにいる?
ここにきて、佐倉が何故いるのかが気になってしまう。いや、告白されるかも!という気持ちが強すぎて、考える余裕がなかったからかもしれない…か。
冷静に考えてみれば、佐倉は俺より先に帰っていたハズである。
チラリと佐倉に視線を向けると、サッと視線を逸らす姿を目撃してしまった。
どうやら佐倉は佐倉で、何故ここにお前がいるんだ?とでも思っているようだ。
いや、もしかしたら、帰ってくれないかなぁ。と、思っているのかもしれない。
何故なら、俺がそう思っているのだから。
スッと視線を足元に向け、俺は考える。
思いきって、話しかけてみるのはどうだろうか?しかし、そうすれば当然、逆に聞くけど…と、なるのは目にみえている。
聞かれたらどうする?
正直に話すのか?
仮に話したとして、佐倉はどう思うのだろうか?
誰からか判らない手紙に呼ばれ、ラブレターかもと期待しちゃってる哀れな子。
いや、男の子に限らず、この手紙を読んだら、そう考えてしまうものではないのだろうか?
となると…。
期待しちゃった結果、相手は現れない。
つまり、イジメられてんの?と、佐倉は思うに違いない。
そう思われてしまったらさぁ、どうする?
駄目だ駄目だ。と、その考えを却下する。
もしかして、佐倉がこの手紙の主なのだろうか?あのさぁ…と、聞いてみるべきなのだろうか?
しかしそうした場合、手紙って?となり、誰からか判らない手紙に呼ばれ、ラブレターかもと期待しちゃってる哀れな子。結果、待てども相手は現れなかった。と、思われてしまうかもしれない。
それにだ。
仮に佐倉だとするならば、俺が来た時に声をかけてくるハズである。しかし、結果はご覧の通り。
…はぁ。
そもそも何でここに居んだよ!何もこんな日に居なくてもいいんじゃないっすかね。
この手紙をもらっていなければ、佐倉ほのかに出会った場所が屋上でなければ、こんなに悩む事などない。
よ!とか、じゃ!とか言って、屋上に向かうだけで良かったというのに…ホント、ややこしすぎる。
チラチラとコチラを見てくる視線には気付いている。それを敢えて無視していた。
最低?酷い?
それは違う。
視線を感じたので視線を向けると、サッと、視線を逸らされてしまうのだ。
そんなに早く帰って欲しいのだろうか?
しかし、残念ながら俺には帰れない理由があるのだ。
く、くそ…。
携帯を再度確認すると、時刻は18時30分であった。
タイムリミット…だな。
この手紙がラブレターなのか、イタズラだったのかどうかは判らないが、流石にそろそろ帰らないとマズイ。
予定があるんだよ、予定がな…はぁ。
きっとこの日の夜は、モヤモヤしたままなのだろう。冬美先生ーー!!と、浅倉先生を罵倒してしまうかもしれない。
ホント。ついてない。
ザ、ザ、と、足を引きずって歩く。重い足どりだからとかではなく、佐倉に聞こえるようワザとだ。
ほら、喜べ、帰ってやるぜ!という気持ちを抱きながら足を引きずって歩く俺は、出口の扉の方へと歩いて行く。
結局、佐倉ほのかがここに居た理由は判らないし、判らない方が絶対いいに決まっている。
考えてみろ?
仮に佐倉が手紙かメールかで誰かを呼び出して、ここで告白をしようとしていた場合、俺より先に来ていた佐倉はこの屋上でどれだけ待っていたか…その結果、相手は現れなかった。
逆に呼び出しを受けてやって来た場合も同じだ。
どちらにせよ、相手は現れなかった。
俺より先に来ていたのだから、その分ダメージは俺よりでかいハズである。
しかもだ。
屋上で一人ドキドキ、ワクワク、1時間以上も待っていて、遂に現れたのが何と俺でした…な?ガッカリだろって、ちょ、ちょっと待て!
そうした場合、何でコイツは何も言ってこないのよ!!と、思っているんじゃなかろか。
チラッと佐倉に顔を向けると、プイッと顔を背けられてしまった。
ですよね。
佐倉ほのかと俺との関係を考えてみれば、決してそんなラブコメ展開にはならないハズだ。
じゃぁな。と、呟いた声は、果たして佐倉の耳に届いただろうか?
ガチャッという扉を開ける音。カシャンという金網の音を背中で聞きながら俺は、その場を後にした。
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