「共有と混乱」
ルナがメモリを回すたび、
ジョン太は自分がいく人も重なっていくような
奇妙な感覚におちいります。
頭の中はいくつもの記憶がごちゃごちゃ混ざり、
正直、気分が悪くてしょうがありません。
『うーん、今回は増えた人数が68人でしたが、
どうもこの少年の脳にはきつかったようですね。
サンプル品だけに、今後は改良を加えましょう。』
ふらふらよろめくジョン太に
のんきな言葉を投げかけるスキューマ。
ジョン太はメモリを回し続ける
ルナに蚊の泣くような声で助けを求めます。
「うぇぇ…ちょっと、ちょっとストップ。」
しかし、そんなジョン太の周りで、
急に赤い光の点滅と機械的な音声が鳴りひびきました。
『緊急指令、緊急指令、クローンが逃亡しました。
繰り返します、クローンが逃亡しました。
いますぐ警備ロボットが周囲をまわりますので、
ご協力のほどお願いします。』
「うぇ…今度はなに、何なの?」
そして、最後の一人の記憶が戻った瞬間、
ジョン太は思い出します。
寒い部屋で機械の箱の中に
一人横たわる誰かがいたことを。
となりにあった空っぽの箱に、
記憶を移すようにうながされたことを。
それを断わったために、
この警報が鳴っていることを。
ジョン太はルナのほうを向くと、
自分が見てきたことを急いで伝えようとしました。
しかし、口を開く前に、
真っ青な顔をしたルナがさけびます。
「なんで、まだ私は11歳になっていないのに?
箱に入る人間の認識ができていないの?
…いえ、まさか、移植装置まで壊れている?
それじゃあ、あの人を救えないじゃない!」
パトリシアを抱えながらパニックにおちいるルナに、
ジョン太はどうしたらいいかわからず、
とにかく落ち着かせようとそっと肩にさわります。
「と、とにかく、おちつこう。
このままじゃあ警備ロボットが来るかもしれない。
スキューマ、警報と警備ロボットの動きを止められる?」
泡の妖精は商品の説明をすませたので、
今まさにボトルの中に帰ろうとしてましたが、
ジョン太に呼ばれたので『ま、ようござんす。』とうなずきます。
『全体のシステムを完全に直すのには50回分は必要ですが、
警備システムだけをいじくるなら1回ぶんの願いで叶えられますね。
さっさとボトルをプッシュしてください。』
もう、迷っているひまはありません。
ジョン太はボトルを1回押し、
出てきた泡の妖精がヒュルリと天井へと消えていくと、
すぐに警報が鳴り止みました。
『これで、警備ロボットは来ませんよ。
システムを緊急停止させたので廊下にはいますが、
基本的には無害です。』
そして次にスキューマは
信じられないことを口にしました。
『では、残りは50回分ですので、
大事にお使いくださいませー。』
シュワワッと消える泡の精。
それを聞いたジョン太はギョッとします。
「え、なんで僕そんなに使っていないのに。
願いがここまで減っちゃうなんておかしいじゃん!」
ボトルと妖精の消えた方を交互に見るジョン太。
ですが、そこに多少涙の混じった声が聞こえます。
「…ううん。多分それ、間違っていないわ。
だってあなたは分身していたわけでしょう?
分身が叶えた分だけボトルが減ったのよ。」
涙をぬぐうルナ。
そして、彼女は続けます。
「ねえ、ジョン太。
ボトルの妖精は願いを叶えてくれるんでしょ?
だったら、お願い…私のオリジナルを助けて。」
ジョン太につめよるルナ。
その目には涙の筋が残っていました。
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