「二人のルナ」

「オリジナル?」


とまどうジョン太に、

ルナは大きくうなずきます。


「そう、私は本物じゃない。箱の中に眠る女性。

 その女性こそ私のオリジナル…本物の『ルナ』なの。」


二人はたくさん窓があった部屋…

ルナの言う監視モニターの部屋を出ると、

たくさんの本棚の並ぶ部屋に入り込みます。


いまだにパトリシアが悪さをすると思っているのか、

ルナは彼女を抱き上げたままであり、

ジョン太は願いを叶えるボトルを小脇に抱え、

そのあとに従います。


「ここは、元々『宇宙と空間の島』と言われていて、

 別の惑星に移住するための開発事業を行っていた島だったの。」


ルナの話によると、10年以上前、

この島は月と地球の中間の位置にあったそうで、

昔の人が宇宙ステーションとして空に打ち上げたものを

少しずつ増築してできた島だと説明しました。


「最初、この島の人たちはつなげた空間を使って

 惑星の中で自分たちが住めるような基地を作っていたの。

 当時の写真も残っているけど、開拓にはずいぶん苦労して、

 『ルナ』はその星で初めて生まれた子供だったのよ。」


そうしてルナが指さす壁に飾られた写真には、

砂だらけの星にドーム型の建物が建設される様子や、

多くの人がその中で農作業を行っている様子が写っていました。


その中でも特に目を引いたのは、

十数人ほどの白衣を着た開発責任者と思しき人たちの集合写真。


ジョン太のその中に、

どこか見覚えのある顔を見た気がしました。


「でも、空間を広げる実験をしている途中で事故が起きて、

 私とオリジナルの『ルナ』を残して島の住人は死んでしまったの。

 空間を通じて惑星の砂が大量に入り込むようになったのも、

 それからのことよ…」


ここは管理棟に作られた図書室だとルナは説明し、

ジョン太は壁際におかれた書物づくえの椅子に、

きれいにたたまれた毛布が一枚だけ置かれているのを

見かけます。


「あんまりジロジロ見ないでね。

 …あの席は私の寝床。私、自分の部屋を持っていないの。

 オリジナルの『ルナ』の部屋にはベッドもあるけど、

 あの場所は私の部屋ではないから…」

 

そう続けながらも、

ルナはどこかさみしそうな顔をします。


「でもね、一度はベッドで寝てみたい。

 固い椅子じゃなくて、ふかふかのベッドで寝てみたい。

 でも最後に寝ることになるのは、あの箱の中だけどね…」


そう言って、今は完全に停止した

看護師のようなロボットの横をすり抜け、

彼女が開けた部屋はジョン太も覚えのある

女の子が暮らすようなかわいらしい装飾の

なされた部屋に出ます。


「惑星では宇宙で快適に過ごすためのいろんな実験が行われていてね、

 でも、『ルナ』は重力の少ない惑星で生まれたせいで、

 人よりも早く年を取ってしまう体質だったらしくてね、

 いろんな科学者が彼女を治そうと色々と手を尽くしたんだけど…」


ルナは空中に浮かぶ少女の写真を見ながら奥に進むと、

壁に手をかざします。


「でも結局、地球の環境にあった肉体を造り出し、

 その肉体に彼女の精神を移植をするべきだというのが

 島に全面協力をしていた専門機関…青少年学習機構の答えだった。」

 

 

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