「シェアリング・コンパス」

泡の妖精スキューマはふわりと浮かびながら、

太陽の形をしたペンダントを指さします。


『それはイデア・アイランド製の学習機能向上装置。

 通称「シェアリング・コンパス」と呼ばれるものです。』


スキューマはそう言うとポンと泡で数体の分身を作り、

本を読んだり自転車に乗ったり寝たり食べるマネごとをします。


『人が一生のうちに学習できる時間には限りがあります。

 ねる時間に食べる時間、移動をする時間にトイレに行く時間。

 生活する時間によって一生の大部分を消費してしまうからです。

 …しかし、もし自分と同じ人間が同時に別々の学習を行い、

 知識として蓄積することができたとしたらどうでしょう?

 これほど便利なアイテムはないのではないでしょうか。』


増えたスキューマはポポポンと一つに戻り、

羅針盤にピッと指を向けます。


『それができるのが、この『シェアリング・コンパス』、

 太陽部分のつまみをねじることで距離にして半径1キロメートル分、

 最大1,000人まで分身を増やすことが可能です。

 彼らは各々学習し、知識は徐々に蓄積、

 本人の身になることはまちがい無し!』


装置のつまみをいじり、ポポポンと

10人以上に増えるスキューマ。


『分身は周囲にあるチリや砂から形成され、

 オリジナルの記憶を受け継ぎます。

 分身の記憶も本人といっしょに共有できるので、

 今、分身が何をしているかも丸わかりでとっても便利!』


「え…何言ってるの、この泡。」


何だか残酷な人体実験をされていたという

その事実に理解が追いつかず混乱するジョン太。


それに、ルナはさらっと説明します。


「ようは、この船の中にいるのはコンパスによって増えたジョン太で、

 彼らがバラバラに行動しても知識は目の前のジョン太を含めて

 みんなで共有しているってことでしょう?」


『エクセレント!その通りでございます!

 ものわかりの早いお嬢さんで助かります。』


「…で、ジョン太を元に戻すには、

 このつまみを0にすればいいのかしら?」


『そうです、そうです。』


そう言うなり、

ルナはキューっとコンパスのメモリを回します。


「…もう、こんなものがあるからジョン太が混乱するのよ。

 なんでこのが持っていたか後で問いつめなきゃね。」

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