「いくつもの窓がある部屋の中で」

あいまいな意識の中、

聞き覚えのある声がジョン太の耳にとどきます。


『…いかがでしたかパトリシアさま。

 この島の攻略は進んでおりますか?』


それは、泡の妖精スキューマの声。


『一番近い移動島に行きたいというあなたの願いは確かに聞き届けました。

 先代さまから託されたあなたの行動は故・イデア博士も知るところ。

 くれぐれもパートナー共々、怪我や無茶のないようにとのお達しでして…』


しかし、それをさえぎるように唸り声が聞こえます。


『ああ、申し訳ありません。このことはご同伴の方はもちろんの事、

 くれぐれも他者にはご内密という話でしたね…わかりました。

 それでは内部回線はここで切らせていただき…』


しかし、それ以上スキューマが言葉を続ける前に、

「キャン」という犬の鳴き声と少女の声が聞こえます。


「あなたね?この船で悪さしているのは、

 その首かざりも怪しいわ、ちょっと見せて。」


その声に、ジョン太は目を覚まします。


…そこは、かべや天井に大きいものから小さなものまで

丸い窓がいくつも開いている奇妙な部屋。


窓には先ほどまでジョン太のいた果物のなる温室や、

誰も乗っていない箱が移動する様子、

まだ行ったことのないどこかの学校と思しき場所や、

どこかもわからない海や山の景色が広がっています。


ですが、そのほかの窓は機能していないようで、

何も映らない真っ黒な窓もいくつかあり、

それでもどこかとつながっているのか、

暗い空の下に白い大地だけが広がる中央の窓からは、

ホロホロと白い砂がもれているのが見えました。


その部屋の中央でいらだち気味に

愛犬パトリシアを抱きかかえるルナがいます。


ジョン太はあわてて立ち上がると、

足をもつれさせながら二人に近づきました。


「ちょ、ちょっと。パトリシアが何かした?

 何かまずいことをしたなら僕もあやまるけど…」


そう言ってルナに事情を聞こうとするジョン太。


ですが、パトリシアの胸のあたりで

カチッという何かの機械音がしたかと思うと、

ジョン太の意識は再び遠のいてしまったのでした…

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