「あいまいになる記憶」

「…パトリシアはこっちの方向にいるはずよ。

 本当は正規のルートじゃないけど、

 ちょっと近道させてあげる。」


ルナがスッと床に手をかざすと、

透き通った水面の中に人がくぐれるくらいの

大きさの四角い穴があきました。


「ついてきて、ちょっと狭いけど

 私たちなら問題なく通れるから。」


先導するように穴をくぐるルナ。


水面の中がこんな風になっているなんてと

ジョン太は正直驚きましたが、通路の中を走る箱といい、

果物や野菜のたくさんなっている温室といい、

ここには何でもあるのかもとジョン太は考え直し、

ルナの後を進みます。


…しかしながら通路は暗く、

またジョン太がもたもたしているせいで、

ルナの姿はどんどん遠くへ行ってしまいます。


「ちょ、ちょっと待って。

 前があんまり見えないから追いつけないんだけど…。」


そうして、ジョン太がヒイヒイ言いながら穴から出てきた場所は、

ぼんやりとした青い光の灯る、うす暗い部屋でした。


床にはうっすらと砂が積もり、

また、ひどく寒いためジョン太は肩をさすります。


「うわ、こんなに寒いなんて。通路もそうだけど、

 この場所はどうも冷房が効きすぎだよ。」


そうして、ジョン太は先に進んだルナを探しますが、

そこまで考えたところでハタっと気づきます。


「あれ?なんで僕、女の子の後を追っていたんだ?

 …っていうか、なんでその子の名前がルナってわかるんだ?

 パトリシアはどこ?バスではぐれちゃったのかな?」


ジョン太は手に持ったボトルをしっかりと抱え、

あわてて必死にここまで来た経緯を思い出そうとしますが、

どうにもこうにも先ほどから記憶があいまいな感じがします。


赤いハンドルの付いた扉の外で砂の海を見た記憶や、

リュックの中にあるボトルの泡の妖精を使って

温室の果物を食べたりした記憶もありますが…


どうにもこうにも、

それは自分の記憶でありながら、

自分の記憶ではないようにも感じます。


「なんだろう、どこかで頭でも打ったのかな?」


とにかくパトリシアを探そうと思い、

ジョン太は床に置かれたリュックを持ち出し、

歩こうとします。


ですが、そこから数歩も進まないうちに

部屋の中央に置かれている大きな箱に目がいき、

ジョン太はその足を止めてしまいました。


「…え?」

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