「ジョン太、ジョン太に出会う」
ぱちゃんっ
水しぶきが跳ねると魚が銀色の腹を見せて逃げていきます。
「チェ、はずしたか」
ジョン太はそう言うと石と棒を紐で組み合わせたヤリを引き抜きました。
紐はその辺にあった植物の皮をはいだもの。表面を川で獲れた黒く尖った石でガリガリとけずり、大きな石でガンガンと叩いて柔らかくしたものでした。
皮は水で何度も洗って叩き続けないと巻けるほど柔らかくはならず、ジョン太は何度も挫けそうになりましたが、そこはパトリシアと仲良く魚を食べる姿を思い描くことでなんとか乗り切りました。
「でも、なんだか本当に狩りをしているみたい。もし、ここにパトリシアがいたとしたら…ずいぶんと楽しかったんだろうな。」
川での魚とりを中断し、パトリシアを想ってしんみりとするジョン太。
ですが必死に編んだカゴに魚はおらず水の中でさらさらとぬれていくばかり。
急いで捕獲しないと日が暮れて魚どころではなくなってしまいます。
それに、長いこと魚を探してかがみながら川を見つめていたせいで、だんだんと腰も痛くなってきました。
「うー、まるでおじいちゃんになった気分。もういい、やーめた」
言うなり、ジョン太はせっかく作ったヤリを放り投げてバチャバチャと川から上がってしまいます。
着ている長袖パーカーも川に浸かっていたせいで水を吸って重くなっています。
もっとも、これはパーカー型の水着なので濡れても別に良いのですが…
「もう、さっさとその辺に生えているキノコでも採って海岸に戻ろうかな…」
帰る方向はまったくわかりません。でも、とりあえず困った時には川の上流に行くと良いとおじいさんから聞いていたのでジョン太はその通りに歩きます。
ジョン太は草をかき分けながら川を遡るようにガサガサと歩いていましたが、やがて木々が開けた向こう側から大きく光が漏れていることに気づきました。
「え、もしかして、もう森を出ちゃったの…上流のはずなのに?」
ジョン太は首をかしげつつも先に進もうとし、気づきます。
…気がつけば、ジョン太の進もうとしている先から人の声が聞こえてきます。
それも、一人や二人ではなく、ガヤガヤという大人数の声。
「え?ここって無人島のはずじゃあ…」
とっさのことに状況が飲み込めないジョン太。
…その時、誰かがこちらにやって来ます。
「やあ、どうやら君はここに来るのが初めてなようだね」
逆光のため、誰ともわからない姿。
ですが、その声にジョン太は聞き覚えがありました。
相手は白いパーカーと半ズボン姿。
足には見覚えのあるサンダルを履いています。
その顔は近づくにつれてどこかで見覚えがあるような気がし…
ジョン太は思わず良くも悪くもない顔立ちの少年に聞き返しました。
「君、どこかで見た覚えがあると思うんだけど…いったい誰なんだい?」
すると、相手は肩をすくめてこう言いました。
「そうなんだよね、僕も最初は相手にそう聞いたよ。『君は誰なんだい』って…でも誰でもない。僕は僕だ。君が君であるようにね」
(意味がわかんない)
ジョン太が戸惑っていると相手は顔を上げます。
そして、ジョン太とまったく同じ声でこう言いました。
「僕は『ジョン太』…もっとも、この先にいる人たちもみんな同じジョン太だけどね」
その言葉にジョン太は木々の先を見てハッとします。
森の向こうから聞こえる無数の声、ざわざわと動く人の姿、彼らがジョン太と同じ姿をしていることに気がつき…ジョン太は思わず息を飲みました。
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