第8話 月曜日 告白大合戦
月曜日 告白大合戦
ここにいたい ここにいたいそんな風にみんなが思っていたんだ。だから、ここが、僕らの居場所。
いつものように少し遅れて入ってきたレオとツキ。その姿を珍しく早く来ていたニャースがまじまじと見つめ、呟いた。
「あにゃ。レオ、髪切った?」
「・・・似てない。」
「モノマネじゃにゃーし!!」
さっそく騒がしくなりそうだと判断したらしい、Qちゃんが迷惑そうな顔をして窓際の席に移る。
「あれ?あん時・・そっかそっか。ニャースはいなかったんだっけ。そういや、土曜日だったもんね。」
怪訝そうな顔をしていたレオが、しかしすぐに納得したような顔をして鞄を空いている机に乗せると、ムックが気がついたように笑った。
「ニャースは土曜日は、何があっても寝ているんだもんね。」
「ムック!おはよー!」
「うん、おはよう。・・レオ、髪の毛本当にごめんね。せっかく綺麗に伸びてたのに。」
「いーってば。ムックを守れたんだから、へーきへーき。」
申し訳なさそうに眉を下げるムックに、レオは大きな手でピースサインを作って笑う。少し短くなった髪は、長いポニーテールではなく頭の上にかわいくチョコンと乗せられたちょんまげのようになっていた。
「にゃ?何かあったのにゃ?」
「ニャースにも教えてあげるべきじゃないかい?一応、ムックのラブレターの顛末を。」
話に入れないニャースの不思議顔を見ていたQちゃんは、小さくためいきをついた。
「あー、そうか。それもそうだね。」
「にゃにゃにゃ?にゃーのいない間ににゃにがあったにゃ?」
「すっごいね、今のすごい“にゃ”がいっぱいあったね。」
「まぁ、俺から話すよ、大事なことだし。」
それぞれに話す、レオとニャースを制してツキはようやく声を出した。それを聞いて辞書を読んでいたQちゃんが、少し顔を上げた。
「ついでに、あの後何があったのかも知りたいよ。」
「はいはい。んじゃ、まずは・・・・」
ツキの話を時々罵声を交えながら、ニャースはしっかりと聞いているようだった。
「と、いうわけでした。」
全ての話が、終わり。土曜日の顛末を聞き終えると、レオは不満顔で大きく伸びをした。
「はあーなにそれ。結局、家まで送っただけ?そんで、今日もふつーに挨拶しただけ?もーあんだけ騒いでさあ、ツキいい」
「他に何しろって言うんだよ。」
「まあ、そうなんだけどお。俺の髪が短くなったわりには、小さい変化ですよねえ。」
ぶーっと口を尖らせて見せるレオに、ツキは怒ったのか眉を寄せた。それを見た、ムックが慌てたように
「まあまあ、レオ。それは私のせいだから。ごめんってば。」
「いいだろ、ポニーテールにはできるんだから。」
「そうにゃ。そうにゃ。しかも、何ニャ!何、さり気なくムックに告白してるにゃ!!」
話の中、ニャースの食いつきが一番激しかったのは、そこだった。
「あー・・あれは・・本気だったんだけど。」
「本気だっただと!?おい、レオ!!お前という奴はああ!!」
「そうにゃ!にゃーだって、にゃーだってムックが好きにゃあ!!」
「え」「あ、センセー。どっから湧いた。」
突然現れたセンセーに全員が、注目する中。顔を赤くしたニャースが必要以上に大きな声で続ける。
「ずずずっと、ずっと好きにゃっーっ!」
「・・・だめ、だめだめだめ。そんな頭の人に俺の可愛い妹はやらん!!」
センセーの怒号にレオはけろりと尋ねる。
「え、じゃあポニテならいいの?」
「にゃー!!お前ら、にゃーのツインテールをネタにしすぎにゃ。いい加減、マンネリにゃ!」
「わかってんなら、髪形変えろよ。」
「なんでにゃーが変えないといけないのにゃ。」
ニャースの相手に告白に、だんだんとイライラしてきたらしいツキが少し声を荒げる。そんな会話が聞こえていないのか、センセーが少し低い声でレオを諭す。
「でもな、レオ。お前には彼女が、愛しい由香さんがいるだろう。」
「いや、でも、ムックのことも愛しているのさ。」
「レオ、サイテー」「由香さんに失礼だろ。」
批難轟々にレオは慌てたようにばたばたと手を振って否定した。
「違う、そういうことじゃなくて。」
「もう、ちょっと、みんなふざけないで、からかわないでよ。」
困ったように笑うムックに今度は真面目な顔をしたツキが、近づいた。
「からかってないよ、俺も。俺も、ムックが好きだし。」
「はう?」
「ああああ!!ツキまで!ツキまで乗ってきたあああ!」
普段、こんなことを言わないツキの冗談とも本気ともつかない言葉にムックは、ぽかんとあまり大きくもない口を開けて、瞬きも忘れてしまっている。
「もう、俺は逃げないことに決めたんだよ。隠すこともやめる。だから、はっきり言う。ムック、」
「は、はい。」
「好きだ。ずっとずっと、大好きだ。」
「・・・あ、」
普段は絶対に見せたことのないツキの笑顔に、ムックは困ったように頬を赤く染め、俯いた。その小さな手を、ツキの大きな優しい手が握る。
「ず、ずるい。ツキはあの顔で得してるにゃ。」
「まぁ、でも・・良い笑顔だ。ナイススマイルツキ。」
「だけど、だめだだめだ、だめだああああ!ツキは、ツキはだめだああ、深雪!!」
ぐいっと握った手を離し、ツキとムックの間に無理矢理ぐいぐいとセンセーが入りこむ。すると、ツキはわかりやすいほど機嫌を悪くした。
「おい、邪魔するな。今、いいところだろ。」
「いーところだからこそ、邪魔ずんだろおお。深雪!お前は、お前は誰が好きなんだ!?」
「え、い、いや・・そんな、こと・・」
「じゃあ、戦って決めるか?何がいい?ケンカ?」
「それじゃあ、レオの一人勝ちにゃ。」
「なら、やっぱ頭脳だろ?」
「ツキしか、勝ち目ない。」
「うん。そうだけど、それはそれでセンセーとしては悲しいなあ、なんて。」
レオの言葉に頷くニャース。満足気なツキを見ながら、センセーが誰に届くともない悲しみを孤独に呟いた。
「けど、ムックは頭いいほうが好きでしょ?」
「え?・・いや、まあ。うん。」
「にゃー!!頭が良いにゃんてたいしたことないにゃ。だったら、だったら・・にゃーの方がムックのことよく知っているにゃ!!」
「・・・じゃあ、それにしたら、どうだい?」
「うん?」「にゃう?」
一つも勝ち目のない戦いにニャースが叫んだ言葉に、Qちゃんはパタンと辞書を閉じて顔を上げた。教室中の視線が集中する。
と、いうわけで
「第一回、深雪ちゃんをどれくらい知っているかなクイズ~!!」
「何これ。ちょっ、みんな落ち着いてよ。」
「さあ、こいこい!!どんな問題かなあ。」
突然、作り出された弾幕に王座のように飾りつけられた椅子に座らされたムックは、怯えたように困ったようにあたりを見回す。
しかし、この場に冷静な判断を下せる人間はいないようでムックの叫びは誰も聞こえなかった。
「では、第一問!!深雪が好きなのは、甘い卵焼き?それともしょっぱい卵焼き?」
「にゃ、ムックは甘いの大好きにゃから。甘いのニャ!!」
「そうだな、俺もそうだと思う。」
「うーん。意外にしょっぱいのだったりして?」
「むふふ、正解は?深雪は、卵焼きが嫌いでーす!!ね?はーい、残念!!はい、はい、次!だいにもーん。深雪は、犬派?それとも猫派?」
「・・・・猫にゃ、猫。」
「この問題もいんちきだろ、どうせ。」
「犬!この間、犬の番組見てたし!!」
「はーい、正解は、深雪は動物アレルギーだから、犬も猫も鳥も触れませーん!!!」
「・・・・」
「・・・・。」
「・・・・。」
「じゃぁ、第三問!深雪の、好きな人は?」
「は?」「何いってんの?」
「そんにゃの、にゃーに決まってにゃーす!!」
今にも飛び上がらんばかりに、答えるニャースにセンセーはニヤリと笑う。
「ぶぶー!!正解は、俺、でしたあ!!」
「・・・」
「・・・・」
「・・・頭、おかしいんじゃないの。」
「よーし、まだまだいくぞ!!深雪の昨日の風呂の時間、パジャマの柄は?今朝のシャツの色にパンツの、ぐべらっ!」
「わー!お兄ちゃん!!」
ヒートアップしすぎたセンセーの頭を、Qちゃんに拝借した今日持っている中で一番分厚い辞書の角で殴ったレオに、ニャースとツキは親指を立てて功績を褒めた。
「レオ、ナイス判断にゃ。」
「危うく変な感じになるところだった。」
ばったりと床に倒れてしまった、白目を向いているセンセーを見つめ全員がため息を付いた。
「ねえ、やっぱしこの人ちょっと危ないんじゃん?」
「にゃーも、そう思う。ムックのそばに一番いちゃいけにゃい人だと思うにゃ。」
じーっとセンセーを見つめていたツキが、急に顔を上げると目の前にいたムックに至極真剣な表情で告げる。
「・・・ムック、俺と一緒に暮らさないか?」
「ええ!?ツキ、ど、どうしたの?」
「この変態と一つ屋根の下は少し心配になってきた。」
「いや、それなら僕もいるから平気だ。」
「じゃー、Qちゃんも一緒にツキの家に行きなよ。俺たちでこの変態、ケーサツに連れて行くから。」
よいしょ、なんてセンセーの肩をレオが掴むと、それを反動にしたようにビヨンとセンセーが立ち上がった。
「ちょっ、まてまて!何、さり気なくプロポーズっぽいことしてんだ、ツキ!そして、レオ、俺はまだ警察にお世話になるようなことはしていない!!」
「・・・まだ?まだってどういうこと?」
「これから、何かするってことにゃ?」
「・・・・まあ、ほら・・そーれは、いいとしてさ。もう、お勉強、しようか。一番、深雪に詳しくて、深雪を好きなのは、俺ということで落ち着いたわけだし・・・ね?」
「いや、落ち着いてはいないだろ。」
「むしろ、センセーが変態にゃということが証明されただけにゃ。」
「わお、ニャースから証明なんて難しい言葉が出てくるなんて、センセーびっくり!!」
「誤魔化すなよ。」
「・・・レオ、こわーい。テヘペロ。」
「使い方ちがうだろ。」
全員の痛い、そして怖い視線から逃れるようにセンセーは天井を見上げた。
「み、みんな、とにかくもういいよ。全部、解決したんだから。ね?」
「いーや。ムック、一番重要な問題が残っているにゃ。」
「そう!ニャースのツインテールがキモイ!」
「あぁ。そうか、それも残ってたかあ。」
「それも大きな問題だな。」
「にゃー!!もう、いい加減にしろにゃ!!!」
何時の間にやら、天井から戻ってきたセンセーはさっきまで冷たい目と低い声をしていたツキとレオとともに今度はニャースをからかいはじめた。
わーわーと騒ぐ四人に、もういいかな。と諦めたムックの隣りにすっと静かにQちゃんが座った。
「・・・楽しい、ね。」
騒がしい教室を見つめ、Qちゃんは言葉通りに微笑んだ。それを見たムックは、ほんの少しだけ驚いた顔をして、けれどすぐに
「そうだね。楽しいね、詞。」
同じ位、楽しそうに嬉しそうに笑った。
誰だって逃げ出したくなるときがある。
どこか隠れられる場所が欲しくなる。
本当の自分がわからなくなったとき。
今の位置が見えなくなったとき。
不安と恐怖で前がみえなくなったとき。
誰も知らない世界に逃げ込みたくなる。
だけど、
だからこそ、
僕らには、いつだって
f組 霜月 風雅 @chalice
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