古山淳プロローグ
高校3年に進級した春。
僕はすっかり歩き慣れた道を歩いていた。
ふと頭をよぎるのは、昼休みに友人たちと交わした『季節と言えば』という会話の内容。
その時はあまり深く考えなかったが、ただ足を進めるだけの今では丁度良い暇潰しかもしれない。
一度、肩に提げた通学カバンを背負い直す。
そうだな……夏なんて分かりやすい。夏と言えば運動。スポーツだろう。
秋はやはり芸術だろうか。造形でも絵画でも、創作物がしっくりくる。
となれば、冬は食事だな。鍋なんて特に良い。正月になれば御節も美味しいし、コタツで食べる食事が1番だ。
なら……春は?
ううむ、と少し考える。
夏秋冬はパッと出てきたのだが、春はすぐに出てこない。花が綺麗な時期……いや、僕は花に詳しくないし、なにより虫が多くなる季節なんて連想をしそうで嫌だ。
空を見上げると、丁度夕日に照らされた雲が東から西へ流れていた。その影から覗く、一番星。
「あ、あった」
あれは1年前の春。
2年生になりたての僕と彼女が出会うきっかけになったのも一番星だった。
そう。僕が春に何か印象を付けるのなら、間違いなく『恋』の季節だ。
出会いがあって、別れがあって、嬉しさがあって、悲しさがあって。
様々な感情が入り乱れる季節でありながら春が綺麗な季節であり続けるのはきっと、この思いを持つ人が沢山いるからだろう。
僕は足を進める方向を転換し、細い脇道を抜けて大通りへと出た。
きっと、彼女がいるであろう場所へ向けて。
早足になるのを感じながら僕は進んだ。
夏の終わり、花火の夜 蓬莱汐 @HOURAI28
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