第1章 始まりの火蓋
第1話 戦いの始まり
休暇を取った彼女は家に着いた。
いつもと変わらぬ家、産まれ育った家だ。
セレナ「ただいま~」
扉を開けるとすかさず
グリン「お帰り、姉さん!」
今までの暗い考えを吹き飛ばす位の元気な声が返ってきたと同時に彼は姉の胸に飛び込んだ、
グリン「姉さんご飯作っといたんだ、味には自信が無いけど・・」
今度は彼女が彼の不安を消し去るように微笑みながら
セレナ「お前が飯を作るなんて、良く作れたな」
冗談混じりに言った。
グリン「止めてくれよ、いつまでも子供扱いするのは」
そういうグリンの顔には笑顔が混じっている
セレナはわずかに微笑みながら言った。
セレナ「確かに…もうお前は立派な大人だな…子ども扱いしてすまないな」
グリンは笑顔で返す
グリン「大丈夫だよ」
グリンは台所へ歩いて行く
グリン「ジャーン! これ全部僕が作ったんだ」
セレナ「これ全部お前が作ったのか!?」
グリン「ヘヘッ、驚いた?」
セレナ「あぁ…」
セレナは驚きのあまり言葉を失った
グリン「さ、食べて食べて」そう言われると彼女は一口、食べた
グリン「どう?美味しい?」
セレナ「あぁ、うまいぞ」そう言うと彼喜んだ顔しながらグリンが言った。
グリン「でしょ!!」そう言い返すとしばらくの間台所が静寂に包まれた、
グリン「姉さん、実は話があるんだ…」
先に静寂を切り裂いたのは弟の方だった
グリン「実は…」
セレナ「何だ?」
グリンは婚約者がいる事や、出逢うまでを淡々と話して行った
セレナ「何!? 熊に襲われている所を助けてそれでデートして結婚!!? 」
グリン「ごめん、今まで黙ってて」
彼は今でも消え入りそうな声で謝った
少し間を置いてから彼女が言った、
セレナ「いや・・・別に謝らなくてもいいが・・・」
グリンの表情を見るとこっちまで申し訳思ってくる。
グリン「え!?」
セレナの予想外の言葉に彼は驚いた、彼女は又少し、間を置いてから彼に言った
セレナ「結婚、おめでとう…でもそれにしても早くないか?」
彼女は祝福の言葉を贈った、人から見たら喜んでいる様には見えないが普段感情を表に出さない彼女からしたら精一杯のお祝いの言葉だ、しかし姉からしたら不安でもある。
帰省していきなり唯一の身内の結婚の話なのだから、無理もない話だ。
それにセレナは弟「グリン」の婚約者に会ってもいない。
グリン「有難う姉さん!は、早いかな…?」
喜びの顔が一瞬で不安な表情を浮かべる、小さい頃からグリンはそうだ。
何かにつけて、何か意見を私が言うと俯き加減で顔色を伺いながら私に訊いてくる。
今まで私が姉であると同時に、親代わりだったのだから無理は無い。
セレナ「いや、結婚自体は良いが、私は会ってすらいないのだぞ?しかしお前が選んだなら大丈夫だろうとは…思うが…それにしてもいつ挙式を挙げるんだ?」
彼女はお茶をすすりながら彼に訊く
グリン「来週だよ!」
彼は間髪入れずに答える、あまりにも予想外の回答と満面の笑みで
セレナはお茶を吹きだす。
グリン「えぇ!?姉さん大丈夫!?」
セレナは咳き込みながら答える。
セレナ「だ、大丈夫だ!それにしても来週!?…お前それは早すぎないか!?」
グリン「別に早すぎ無いよ、だって姉さんが返って来る前にはもう決まってたから」
セレナ「そう…なのか…で、相手はどんな人だ?」
グリン「それは来てからのお楽しみさ」
彼からの予想外のサプライズに彼女はまた驚く
セレナ「な!?え!? きょ、今日来るのか!?」
グリンは何食わぬ顔で食事を食べながら答える。
グリン「うん、後5分位で着くんじゃないかな?」
セレナ「お前っ!!こっちは何の準備もしてないんだぞ!」
グリン「大丈夫、彼女は僕らが貧しいのは知ってるから」
セレナ「ちがっ!お前そうゆう意味じゃ」
彼女が言い終わる前に扉を叩く音が鳴った
コンコン
グリン「あ、来た!『今行きまーす!』
セレナ「ちょ、ちょっと待て!!」
セレナは慌てて彼を追い掛けるが、その努力も虚しく木製で出来た扉が開く
扉を開けたと同時にグリンに飛び付く、
グリン「ぐぁ!」
セレナ「ッ!!」
セレナが飛び付いた反動で二人とも転けた
グリンの婚約者である『アルバ・クウェーサー』は微笑みながら言った
アルバ「お姉さんと仲がいいんですね」
アルバの問いかけに少し間を空けてグリンは自分の体をはたきながら言う。
グリン「あぁ!仲は良いよ」 すかさずセレナが少し顔を赤らめながら言う。
セレナ「なっ!!ば、馬鹿な事を言うな!!」
流石のセレナも表情に出てしまった様だ、二人に顔を見られまいと急いで自分の体をはたきながら立つ
グリン「あぁ!姉さん今恥ずかしそうな顔してる!」
グリンはここぞとばかりに、にやけ顔で言った。
セレナは照れ隠しながら言う
セレナ「していない!!」
セレナの顔の赤らみは先ほどよりかはマシにはなってはいるが、赤らみが消えた分今度は
微かに笑顔が増えた。
グリン「嘘だね!絶対してた!!」
セレナ「していない!当の本人である私が言っているのだぞ!」
アルバ「あ、あの~」
アルバは申し訳なさそうな顔しながら彼女達の仲裁に入った
セレナ「あ、すまない」
グリンはアルバの顔を見ると急いでキッチンへと案内した。
グリン「さぁ座って座って!」
アルバ「う、うん」
グリンはごぎげんそうに彼女へ言った
セレナも同じく席に座るが、恥ずかしい所を見られたと思い中々アルバと顔を合わせようとしない
食事も進み、ようやくセレナが口を開く。
セレナ「そういえばどうして森に入ってたんだ?この時期の熊は凶暴なのはこの村の人間なら知っているだろう?」
アルバの食事の手が止まる。
アルバ「実は研究に必要な材料がありまして・・・」
セレナ「研究?」
アルバ「はい」
アルバは自分の身の上話をした、元々アルバ自身『ブルへリア帝国』出身で先の大戦時の戦争難民だということ。
セレナ「先の大戦での亡国…」
セレナは呟くようにささやいた。
暫く静寂が食卓を包み込む
暗い雰囲気になっている所を切り裂く様にノックの音が響く
コンコン
グリン「誰だろうこんな夜遅く、はーい今行きまーす」
ガチャ
木造の扉が軋む音が響く、扉の先にはモスグリーン色のスーツを着ている男性が立っていた。
グリンは訝しげな表情を浮かべて男性に訊ねた。
グリン「だ、誰ですか?」
男性「あぁ、はじめまして夜分失礼します。私は君のお姉さんの所属部隊の上司務めている者なんだが、ちょっとお姉さん居るかな?話しがあるんだ」
グリン「その前に名前を教えて下さい。」
グリンは真っすぐな瞳で男性を見つめる。
男性は申し訳なさそうな顔で言う
ガナドル「これは失礼致しました、私『パトリオタ・ガナドル』と申します」
グリンは自己紹介されると一瞬納得した様な表情を浮かべつつ、キッチンの方を振り返って呼びかける。
グリン「姉さん!何か上司のガナドルさんって人が呼んでるよー」
セレナ「分かった!今いく」
ガナドル「おう!居たか!」
ガナドルはセレナの姿を見ると笑って言った。
セレナ「『おう』じゃありませんよ、一体それよりどうしたんですか?」
ガナドル「それよりちょっと話しがあるんだ」
ガナドルは耳打ちをした
セレナ「分かった」
そういうとセレナはキッチンへ行きグリンとアルバに伝える
セレナ「すまない、ちょっと話しがあるから向こうへ行ってくれないか?」
グリン「え?べ、別にいいけど」
グリン達が席を外すしたのを確認するとセレナは訊いた
セレナ「話とはなんでしょうか?」
ガナドル「ちょっと待てよ」
そう言うとガナドルは紙みたいな物を取り出してそれを読み上げた
ガナドル「セレナ・クロイツ、貴方を第4特殊上陸連隊に配属する」
第4特殊上陸連隊は敵基地や敵上陸目標に対しての上陸敢行を主に行う。
歴史ある部隊で今から110年前の最初の神々との戦時中に編制、創立された部隊だ。
10年前の戦争時でも活躍した。
この活躍は、教科書にも乗っており今でも語り継がれている。
しかし事実は、開戦時は部隊の少数精鋭を補うため他の各部隊からエリートを引き抜き。
この部隊に強制編制するという、半ば強制的な徴兵であった。
この事実を敗戦後、政府は国民に対して隠ぺいした。
しかしこの情報自体は
「将校及びそれに及ぶ者なら開示しても構わない」
敗戦から10年経ってようやく定められた、軍内開示法によって開示された、敗戦後に入隊したものは当の部隊員すら知らされなかった。
今では将校及びそれに相当するものなら大体の人間は知っている。
セレナもその一人だ。
戦争当時の死傷者数は8割越え、部隊標語は
「進め、我らの屍で道を切り開け」
それに関わらず招集状まで届いている。
招集状は「当国家が他国に対して脅威、及び当国家の存亡に関わる危機的状況に晒される場合にのみ招集をかける事とし、これを受け取った者は早急に指定部隊にゆくこと。
しかし、婚約者及び何らかの持病を持つ者はこの限りではない。」
無表情のまま紙を見つめる。
セレナ「・・・・・」
軍人であるセレナ悟った、この招集状を渡される事自体戦争が始まったと言うこと、
そしてどの部隊でも関係ないという事を。
ガナドル「す、すまん、本当は俺もこんな連絡係したくないんだ・・・本当にすまない」
ガナドルは涙ぐみがら言う
セレナ「何故謝るんですか?中尉は私に召集状を届けると言う役目を果たしたではありませんか?」
ガナドル「だ、だが…!」
ガナドルの話を遮る様にセレナは言葉を発する
セレナ「私はしかと受け取りました、もう中尉殿の役目は終わりましたよ。
そうでしょう?なら基地へお帰りになったらいかがですか?大変失礼ですが、こちらも食事中ですので」
そう言うとガナドルの体を強引に外へと押し出し、玄関の鍵を閉めた途端、セレナは母親が亡くなった時と同じぐらいの悲しさに襲われた。
母親が亡くなった時は自分はこれからどうしていいのかという不安や頼る所を失った喪失感、色々な感情が混じりあっていたが、今回の悲しさは純粋に「大切な弟を守れなくなってしまうかも知れない」
という恐怖。
自分に対しての不安な気持ちではなく、大切な人に対して思う不安な気持ちで一杯だった。
セレナ「どうして・・・どうしてなんだ」
セレナは涙ぐみながら崩れるように座りこんだ、しばらく泣いた後涙をふき、グリンに悟られないよういつも通りの態度をとった。
グリン「姉さん、一体何の話をしていたの?」
いつの間にかグリン達は部屋からキッチンに来ていた。
セレナ「大丈夫だ、お前達には関係無い」
そういうセレナの瞳は赤みがかっている
お互いしばらくの沈黙のあと、グリンはセレナに言う
グリン「・・・姉さん、隠さないで・・・」
セレナ「・・・」
グリン「もう独りで抱え込まないで!!」
セレナ「!!・・」
グリン「いつもそうやって姉さんは抱え込もうとする!!」
いつもおとなしいグリンが今までに見た事が無い剣幕で怒っている。
グリンの気迫と図星を突かれて返す言葉もなくなった
セレナ「・・・」
グリン「辛かったら話してよ・・・家族なんだから・・」
そう言うと彼女は手に隠し持っていた召集状を彼に見せた。
グリン「こ、これは!!」
グリンはしばらく召集状を見つめると握りしめた
セレナ「な!?何をする!!」
予想外のグリンの咄嗟の行動に思わずセレナは奪い取ろうとする。
グリン「『何をする』じゃないじゃないか・・・久しぶりに帰って来て楽しく過ごそうって時にこれなんて・・・」
いつも温厚なグリンからは想像も出来ない程の怒りが満ち溢れていた。
セレナ「すまない・・・」
セレナが謝った後に事の一部始終を見ていたアルバが止めに入った。
アルバ「もう、お姉さんも凄く反省してる・・・だから許してあげて」
仲裁に入ったアルバも瞳がうるんでいた。
アルバも悲しさの中に怒りが入り混じったような言い方だ。
いつも大人しい彼女からは思いもよらない行動だった。
グリン「!!・・・わ、分かった・・・姉さんごめん」
姉さんに当たっても何も解決しない。
一番当たりたいのは姉さんの方だ。
一番悲しいのは姉さんの方だ、グリンは分かっているのにやり場の無い怒りと悲しさで一杯だった。
その複雑な感情は招集状を握り締めている手に表れていた。
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