文芸部の女子生徒ふたりが、ハッピーエンドをテーマにした短編小説について、いろいろ例を挙げたり論じあったりする放課後のひとコマのお話。
百合です。物語の一番根幹の部分に、大河のように流れる雄大な百合。基本的には少女ふたりのゆるい対話劇で、掛け合いの軽妙さやそこに含まれる関係性の妙、あるいは見えない距離感のようなものを楽しむタイプのお話として堪能しました。
お話の筋そのものは至ってシンプル、ふたりだけの登場人物に固定された状況(場所)、時制も遡ることなくまっすぐ進むという、短編の見本のような堅牢な書き方。とはいえ決してシンプルなばかりではないというか、むしろ総体としてはかなりの変化球のように思えるのは、やはりこの作品に仕込まれたメタ構造の仕業だと思います(メタフィクション、という言葉だと少し意味が違う感じ)。
作中の登場人物である少女たち、ミヤコとトモコの置かれた状況。「ハッピーエンドをテーマにした短編小説を書く」、より正確には「コンテスト参加のために内容を考える」という行動(目的)自体が、この作品そのものに対して入れ子のような構造になっていること。おそらく見た目以上に乗りこなすのが難しいこの構造を、でも危なげなくシュッとまとめていること自体がもうすごい。
思いっきりネタバレになりますが、このメタ要素はあくまで話の枕として、そしてある種の迷彩として使われているだけで、決してそれに頼りすぎないところが好きです。この線引きというかさじ加減というか、やりすぎないように気を配る上品さのような。
迷彩の裏からしっかりストーリーを盛り込んできて、その上で一切メタのないところで(つまり完全に彼女たち自身の物語として)ハッピーエンドしてみせること。搦手のようでいて最後にはきっちり合っている帳尻、その説得力というか爽快感というか、とにかくラストの心地よさが最高でした。いや本当、うまく言えないんですけどものすごく綺麗なんですよ。彼女たちと同じ次元で見ていたら何もないはずのところに、でも読者の視点だからこそはっきり読み取ることのできる見事なフェイント。
あとはもう、百合です。どこまでも甘酸っぱく瑞々しい思春期年代の恋。ちょっと面白いのがキャラクター造形の味付けというか、同じ学校の生徒同士なのに主従の関係でもあるところ。詳細には書かれていないものの、でも必要な情報だけはしっかり提供されていて、それだけにその関係性をついつい想像させられてしまう、そんなキャラの強さが楽しいお話でした。