第4話「お前……本当に胸ないな」
それから少し進んで、道行く道のりに見覚えが所々に移ろうようになったところ。
そこまで積もる話を崩しながら続ける僕と妹だ。
「……そか。じゃあ蛍ももう高校二年生な訳か」
「そだよー。あたしも今や花のJKだぜー」
「…………花の、ね」
「なんだよー、文句あんのかよー」
「いんや、別に」
「なら、よし」
JK、ね。
僕は改めて隣に並ぶ我が妹️️——『薄雪蛍』に目をやった。
確かに格好や風貌、露出した太ももや二の腕からはその華やかさや瑞々しさが伝わってくる。確かに全体的にこじんまりした体型で、言ってしまえば子供的な体型ではあるものの、しかし全体的にすらっとしたその体型は、長い手足のせいもあってか非常にスポーティーにあふれていて爽やかな印象と雰囲気を持っている。特徴的なつり目も手伝い、その雰囲気と格好と容姿にうまい調和が図られていた。
と、そんな妹に対する客観的評価を胸の中に並べながら、今度は反対に僕は主観的な評価として想いを馳せる。言葉に出す。
彼女を見ながら、目が合いながら、「にしても——」と、口を動かす。
「JKブランドがここまで腐って見えるんだもんなぁ」
「なんであたしいきなり喧嘩売られたのかな」
本当、一ミリだって性欲が刺激されない。
健康的な肌、髪をあげたことによって生じた頸、ほのかに膨らみを見せている胸部、すらっと伸びた長い足などなど。
きっとはたから見れば相当魅力的に男性的なものを刺激する部位の節々なのだろうし、マジョリティフェチズムに代表される箇所として僕自身長いこと研究を続けてきている分野な訳だけれど、しかしどうしてだろうか。
「太ももとか、もう大根か何かとしか思えない」
「これ殴っていいやつ?」
もう、本当。
全くなんの感情も湧いてこない。
タンパク質……は言い過ぎかもしれないけれど、それでも異性とは絶対に思えない。
きめ細かいその肌をどんなに見ても、僕には肌色の何かとしか見えない。
とはいえ別に、これを見たから不快になるわけではないし、視界の邪魔なわけじゃないし、見せないで欲しいわけでもない。
なんだろう。
なんなのだろう、この感情は。
……そうだな。
無理矢理に、こいつを一言でまとめるなら……。
「お前の体って超どうでもいいんだよな」
「いやマジで何これ。あたしの忍耐力を試してるの? 耐久値を確かめてるの? それがいったいお兄のなんになるの?」
そんな風にカタがついてしまう。片付けてしまえる。
それは『花のJKブランド』とやらを付与した付加価値が追加されたらしい今もなお、変わることない。
彼女を見て何か他の感情になることはないし、間違っても間違うことがない。
良く言えば安心感。悪く言えば些事感。
これが……妹という存在か。
そんな風に感じ入る。
彼女を見つめてそう思う。
「……人類って本当すごいぜ」
「勝手に謎な境地に達しないでくれないかな。あたしまだ何もわかってないんだ。何一つわかってないんだ」
改めて。
僕は視線を蛍の体に。特にその一部分に持っていって、そして視線を固める。
性欲減退の最大要因。
僕にとって、最大のフェチズムとのギャップに視線を向ける。
「お前……本当に胸ないもんな」
「よっしゃ、一つはわかった。今すぐ私はこいつを殺せばいいんだ」
そんなたわいもないやりとりと殴り合いを繰り広げながら、僕たちは帰路までの道のりを歩いた。
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