身を横たえて
グラン・ノームを送り出したシノシュは、穴蔵の暗がりで深く息をついた。
「最後まで付き合ってくれてありがとう、オブスタンティア」
家族以外で信じられたのは、精霊だけだった。
とても安らいだ気分になれたが、少し息苦しさを感じる。
(空気が残り少ないのだな)
穴蔵に空気穴は無い。
オブスタンティアには「敵シルフに見つからないように」と説明したが、本当の理由は「窒息により確実に死ぬため」だ。
やるべきことは全てやり終えた。
きっと名誉の戦死と認めてくれるだろう。
あとは、最後の時を静かに迎えるだけだ。
まだ立っているチェスの駒は全て倒し、ランプに手を伸ばす。
「いや、点けておくか」
火がある方が空気の減りも早かろう。
身を横たえて手を組み、目を閉じた。
「神様、どうか家族を連座させることなく、御許へ行かせてください。それだけが望みです」
א
両手を広げながらバーサーカーがイノリに近づいてくる。
その中では言い争いが繰り広げられていた。
「ルークスちゃん治療させて! イノリを解体――」
「ダメだ!! あいつを片付けてからだ!」
興奮し続けているため、ルークスの出血はさらにひどくなっている。
精霊たちは狼狽していた。
「主様、グラン・ノームは私が必ずとどめます。ですので治療を受けてください」
「あれを片付けてからだって言ったろ!?」
「あのグラン・ノームは別格です」
「速攻でやっつければ済む!」
「ルールー、血がいっぱいです! 怖いです!」
「うるさい黙れ!」
「「!?」」
ルークスがノンノンに怒鳴るなど、今まで一度も無かったことだ。
あまりの驚きで精霊たちは声を失った。
ルークスが立てる荒い息づかいだけが水繭内で聞こえる。
自分がしでかしたことに、少年は
十を数えるほど時が過ぎたとき、大音声が水繭全体を震撼させた。
「精霊の声に耳を傾けよ、ルークス・レークタ!!」
インスピラティオーネがルークスに怒ったのも、初めてのことだった。
それでも決定権は委ねたままでいる。
「主様、イノリを解体します。よろしいですね?」
「わ……分かった……」
ルークスは身を震わせながら
感情に飲み込まれたことを激しく後悔して。
「ノンノン……ごめん……」
「ノンノンは、へっちゃらです」
まるで気遣いをさせたみたいで自分が情けなく、少年は死にたくなるほど自己嫌悪した。
身を細くして鎧を落としてから、イノリは水繭を地面に置いた。
そのまま本体が溶け、水繭が割れてルークスは外気に解放された。
途端に目眩を起こす。
視野が狭くなり、辺りが暗くなる。
かなりの出血に加え興奮が鎮まり、気圧変動による血管拡張も加わったため血圧が急低下したのだ。
いくら高圧力の本体内部から隔離されていても、水繭が圧縮されるので内圧は上昇してしまう。
倒れ込むルークスをリートレが受け止め、その身を横たわらせる。
頭を水で冷やす一方でルークスの体内水分に同化し、損傷した細胞を修復する。
ノンノンは水筒を両手で掲げてルークスの口に当て、少しずつ水を飲ませる。
その頭上でインスピラティオーネが警戒し、カリディータが敵の前に立ちはだかる。
そこにオブスタンティアが操るバーサーカーが迫った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます