水面下の敗北

「まさか――」

 王宮精霊士室長のインヴィディア卿まで口封じされるとは、ルークスもフォルティスも想定外だった。

 当時の騎士団長と違ってプロディートル公爵の味方のはず。

 ベッドに近づくルークスを女性室員が止める。

「命の危険があるのが分からないのですか!?」

「そうですか。なら」

 と、腰に下げた水筒の蓋を抜いた。

「リートレ、来てくれ!」

 ルークスが呼ぶや、水筒から水しぶきが上がりウンディーネの娘が現れた。

 召喚の儀式なしで来た精霊に、王宮精霊士は驚愕した。


 精霊使いとは、精霊界に声を届ける能力を持つ人間である。

 そうした精霊使いが、一定の手順を踏んだ儀式をすることではじめて精霊界にいる精霊を呼び出せるのだ。

 召喚に応じるかは精霊次第。

 契約精霊でも応じない場合があるし、こちら側にいる場合は声が届かない。

 ルークスの友達のように「精霊界で呼ばれるのを待ち構えている」など常識外なのだ。


 リートレは室員のウンディーネから病状を聞き出す。

「意識喪失、血圧低下、呼吸鼓動ともに弱まり、生命が危険な状態」

「いつからですか?」

 ルークスの問いかけに「朝食後のお茶の最中に突然」と初老の執事が答える。

「それまでの不調の原因は?」

「過労と伺っております」

「リートレ、どう?」

 ウンディーネは老女の上に覆い被さり息をうかがう。その行為に執事が顔をしかめるが、ルークスもリートレも気にしない。

「過労にしては皮膚に水分が多いわ。栄養状態も良好。突然悪くなったみたいね」

「毒を盛られたかな?」

「そのような事はあり得ません!」

 執事の否定を無視し、リートレは確認のため病人の口に指を入れ、大きく開けた。

「何を無礼な!」

 執事が飛びつくも、ウンディーネに触れることもなく体を素通りした。

 患者に触れる部分のみ物質化しているのだ。

「心配ありません」とルークス。「人体に負担はかかっていませんから」

 リートレは老女の口に指を入れ、内部を探る。

「いくら何でも無礼が過ぎます!」

 顔を紅潮させた執事に怒鳴られ、ルークスは眉をしかめた。

「あなたは主人の命より礼儀の方が大切なんですか?」

「それは――」

「先にいたウンディーネのように、遠慮していたら原因も分からず手遅れになりかねませんよ?」

 たじろぐ執事にリートレが追い打ちをかける。

「知らない成分が胃袋にあるわ。多分草だと思うけど、始めて見たわ」

 友達の言葉をルークスは解釈する。

「つまり植物から抽出された何かが口から入ったのか。お茶とかじゃないよね?」

「私の知るお茶には無い成分ね」

「吐き出させて」

「そんな!」

 青ざめる執事をフォルティスがなだめる間、ルークスは手洗い用の洗面器の水を窓から捨てて枕元に置いた。

 リートレは胃袋から腸にかけて液体を操作し、半ば消化された流動物を洗面器へ流し出す。

「もう血液に混じっているわ。水で薄めましょう」

 水差しの水を病人の口から流し込み、胃袋と腸を洗ってから洗面器に捨て、残りの水を飲ませる。

「血液から成分を取り除くには、体内の水分に同化する必要があるわ」

 とリートレは言う。

「精霊が人間の体内に入るなど許されません!」

 精霊士室の女性精霊士が叫んだ。

 精霊の知識で間違った先輩に、ルークスはため息をついた。

「違います。精霊が人体の成分に同化するのであって、異物が体内に入るんじゃありません」

「人間の冒涜です!」

「それって人命より大切ですか?」

「その人命が! 人間の体液と同化なんてしたら、何が起きるか分かりません!」

「何も起こりませんよ」

「やってもいないのに言い切れるわけないでしょ!」

 興奮する女性精霊士に、事も無げにルークスは言う。

「やりましたから」

「――え?」

「リートレは何度も僕の水分に同化しています。病気のときとか、怪我をしたときとか」

 女性精霊士は目を見開き声を震わせる。

「そ、そんな危険なこと……学園では教えないはずです」

 ルークスはあっさり言った。

「僕は水精科ではないので、教えていたとしても知りません。精霊ができることは精霊に教わりました。そもそも体内の水分と同化しないでどうやって、病気や怪我をウンディーネに治してもらうんですか?」

「ですから、接触して体液を操作するのです」

「それで十分に力を発揮できる?」 

 とルークスはリートレに尋ねる。

「治せるものも治せなくなるわ」

「だよね。冒涜とか言うのって、やっぱり神殿ですよね? 専門外の人に従って助けられる命を助けないなんて、罪深い――」

 ルークスは思いついた。

「ああ、毒塗った刃で傷つけられただけで衛兵二人が死んだのもそうか。即死じゃないのにどうしてだろうって思っていたら、そうか。いくらグラン・ウンディーネだって、皮膚の上からじゃ大したことできないよね?」

「そうね。私が水分と同化する以上のことはできないはずよ」

「インヴィディア卿も冒涜だとかで、グラン・ウンディーネが体内の水分と同化するのに反対したのかな? 助ける邪魔をしておきながら『助けろ』と言われたら怒るのも仕方ないか」

 自分の契約精霊に肯定され、精霊士は何も言えなくなった。

 そこまでしゃべってルークスは気付いた。

「リートレ。君なら助けられたかな? 心臓に達する傷でも」

「心臓は血液を全身に回すだけ。その役を私がやって、その間心臓を止めて傷ついた組織を治すのは可能よ。――もちろん傷がついた直後だったらだけど」

 慌ててリートレが付け加えた。ルークスが今にも泣きそうな顔になったので。

 ルークスは感情を飲み込んだ。

「分かっている。あの時君はいなかったし、僕もそこまで精霊に好かれてはいなかった。だから、あの時はたとえその場にいたとしても、僕は両親を助けられなかった」

 奥歯を噛み締める。

「でも今は違う。僕は今ここにいるし、リートレがいるんだ。助けられる命を、つまらない考えで見捨てるなんてできない。僕はインヴィディア卿を助けます。陛下の大切な人だし、色々としゃべってもらう必要もあります。だからこれ以上止める人は『この人に証言されると困る人』と判断します。つまり『毒殺未遂事件の共犯者として取り調べ対象とする』という意味です」

 そこまで言われて抵抗できる者はいなかった。

「じゃ、リートレ。インヴィディア卿を助けてあげて」

 ルークスは親友に頼んだのだった。


                   א


 昼に雨が降りはじめ、王城を雨音が包み込んでいる。

 フローレンティーナ女王は三重に打ちのめされていた。

 婆やのように慕っていたインヴィディア卿が意識不明となっただけでも十分にショックだった。

 その上ルークスが「毒殺未遂」と断定した。

 一命こそとりとめたが、いつ意識が回復するかは分からない状態である。

 そして何より「暗殺事件は過去のことではない」と思い知らされたのだ。

 必要とあらば叔父は、今でも手を汚すことを厭わないと女王に宣言した。

 喪服に包まれた体が小さく震える。


 執務室には女王の他はルークスとフォルティス、それにウンディーネのリートレがいる。

 水の精霊は「未知の植物成分」について説明した。

「それが消化器から血液に入っていたわ」

「解毒剤は無いのですか?」

「その成分の何が悪さをしているか分からないから、打ち消す成分が何かも分からないわ。たとえあったとしても」

 血液からは可能な限り除いたが、細胞組織に入ってしまった分は手に余った。

「リートレが体内の水分と同化するのに反対されました。冒涜だそうで。多分神殿が言ったのでしょう」

 ルークスの報告にフローレンティーナはうなずく。

「命を助けるためなら、冒涜を恐れる必要はないと思います」

「あるいは治療妨害の口実かも知れませんね。内部犯行の線もありますし」

「まさか主人に毒を盛るなんて」

「うーん、実行犯が毒と知らなければ、不審がられずに飲ませることは簡単だったかも。だので困りました。使用人の中に共犯者がいるかを調べて良いのか」

「その権限はあなたに与えています」

「いえ、やるべきかが判断出来なかったんです。だって屋敷の主人さえ殺そうとする人が、使用人の口封じをためらうとは思えません。調べても死人が出るだけかもしれないし、外部から侵入しての犯行なら無駄骨です」

「そうですね。命令した人間は分かっているのですし」

 そこへ辿りつく道が見つからないだけで。

 一方フォルティスは視線を落として黙していた。

「どうしたの?」

 とルークスが尋ねる。

「私の失態です。ルークス卿はすぐ向かおうとしたのに、寄り道をさせたが為に、敵に口封じをする時間を与えてしまいました」

 フォルティスは緊張のあまり身を震わせた。

「それは違うよ。だって決めたのは僕だ。助言の責任なんか取らせたら、助言してもらえなくなる」

「そのような真似は――いえ、ご配慮に感謝します」

「配慮じゃなくて、けじめだと思うんだけど」

 フローレンティーナには意外なやりとりだった。

「ルークス卿は主君としてのけじめを理解しているのですね」

「え? あの、主君とか僕にはわかりません。だって平民の生まれですから。ただ僕は精霊使いです。精霊に何かさせた場合、責任は精霊ではなく精霊使いに生じます。それは父さんにしつけられました」

「それは良き教えですね。あなたは責任を感じる必要はありませんよ、フォルティス」

「お気遣い、恐れ入ります」

 フォルティスは恐縮するしかなかった。

「敵は焦ったのかな?」

 とルークスは唐突に言う。

「よっぽど彼女にしゃべって欲しくなかったか、彼女だとしゃべってしまうと思われたか。どちらにせよ、失敗をそのままにしておかないでしょう。たとえ部下が気を利かせすぎたのだとしても、インヴィディア卿は『切り捨てられた』と考えるでしょうし、それくらい公爵も予想するはずです」

「彼女は再度命を狙われると?」

「意識が戻れば、彼女は殺されかけたと分かります。助かる為には陛下に白状して、公爵を捕まえてもらうしかないでしょう。それを防ぐには口を封じる――か、行き違いがあったと納得させれば良いのかな? でもその場合、公爵本人が説得でもしないと納得しないかな?」

「今は、彼女の回復待ちですね」

「シルフに見晴らせています。意識を取り戻したり、誰かが危害を加えようとしたら報告が来ます」

「家臣が彼女と公爵のどちらに忠誠しているか、それも分からないのですね」

「これ以上犠牲は出したくありません。たとえ実行犯だろうと、責任は命じた公爵にある訳です。いっそ彼の屋敷に乗り込みますか? インスピラティオーネの前で尋問すれば、誰も死なせずに決着はつきます」

「確かにそうでしょうね……」

 だがそんな挙に出たら、叔父は必ずルークスを殺せと命じる。

 たとえルークスが勝利して叔父を罰することができても、フローレンティーナの臣下たちは一斉に叛旗を翻す。

 パトリア王国は機能不全となるうえに、王族の国家への背信で国民の怒りは頂点を極めるだろう。

 国が滅ぶのは目に見えていた。

「今は、時期尚早です」

 としかフローレンティーナには言えなかった。

「ルークス、あなたには歯がゆいかもしれませんが、こちらも態勢を整える必要があります」

 公爵に与する臣下を排除し、軍に属する各領主の人員によって穴埋めしなければ、彼との対決はできない。

 その条件が整ったとしても、フローレンティーナの不安は拭えない。

 ルークスの身が心配でならないのだ。。

 いくら精霊が守っていても完璧ではない。

 事実叔父は大精霊が守るドゥークスを暗殺、インヴィディア卿を暗殺未遂までしたではないか。

 精霊は突然の暗殺までは防げないし、叔父がルークス暗殺を躊躇うはずもない。

 だが当分手が及ばないなら、泳がすかも。

 あるいは調査を打ち切ってしまえば――ルークスを見逃してもらえるか?

 女王はその考えを否定した。

 自分の身を守るために、両親の仇を見逃すなどルークスにさせられない。

 怖いのは自分であり、ルークスではないのだ。

 彼が寄せてくれた信頼を裏切ることだけはできない。

(もう、道は一つなのですね)

 改めてフローレンティーナは叔父との対決を覚悟した。


 対決の時は恐らく、インヴィディア卿が目覚めた直後になろう。


「今の私たちには力が足りません。でも必ず、叔父に報いを受けさせます」

「僕は目の前のことしか分かりませんから、陛下の意思に従います」

「謙遜です。あなたは敵がインヴィディア卿を説得するまでは予測できましたよ?」

「だって、大精霊が使える手駒を捨てずに済むなら残すでしょ? 当分はインヴィディア卿の意識回復と、敵が罠にかかるのを待つことになりますね」

「罠? インヴィディア卿をシルフが見張っているのは、向こうも承知しているのではありませんか?」

「シルフは二人つけました。一人は室内で公然と、もう一人は姿を消して家の外に。見えている一人が連絡で飛んだ後に何かするのを見張るために」

「名案ですね。そこまでできるのに『目の前のことしか分からない』だなんて。あなたはもっと自分に自信を持って良いのですよ? ルークス、あなたはゴーレムマスター以外でも十分頼もしいです」

「そうなんですか? 敵の意図も読めないのに。なぜ今日になってインヴィディア卿の口封じをしたのか、今もって分からないんです」

 ルークスは腕組みした。

「事件の再調査は一昨日決まりました。昨日インヴィディア卿に嫌疑をかけたことは向こうも分かっていたはずです。

 だのに今日になって実行しました。

 朝食後のお茶なんて人目に付く時間だから助かったようなものです。昨夜のうちに遅効性の毒を使われていたら、寝ている間に死亡したでしょう」

「確かに不自然さは感じますね」

「なんか、今朝になって急に決めたみたいだから、焦ったのかな、と」

 プロディートル公爵はレークタ夫妻暗殺事件において、標的はおろか目撃者と実行犯、実行犯の口封じをした者、さらに陰謀に加担した手駒と、知らずに協力させた者全員を殺して事件を隠蔽しきっている。

 それに比べて今回は杜撰すぎて失敗した。

 と、そこまで考えた末の「焦ったのかな?」発言だった。


 発言に至るまでの情報処理が多すぎること、それがルークスが他人との意思疎通でつまづく大きな理由であった。

 考え無しの発言ではなく、十分に考えている。

 むしろ考え過ぎるし、他人と思考パターンが違うので齟齬が起きるのだ。

 さらに考えが終わったときに話すので、話の流れに遅れるか、食い違いがちとなる。

 他人との齟齬を繰り返すうちに、ルークスは「もっとうまく伝えよう」とさらに考えるようになり悪循環を繰り返した。

 雑談などの日常会話が「思考を介さない反射的な言葉のやり取り」であるなどルークスには想像もできなかった。

 言葉のかけ合いで相手の表情や動作から感情を推し測る雑談は、概念さえ知らない。

 何しろ家族を除けば、ルークスの会話相手は精霊ばかり。

 人間とは物の見方も考え方も違うし、内心を隠すこともしない。

 嘘は言わず、話の誇張もしない、言葉を額面通りに使う相手である。

 そんな精霊との情報交換が、ルークスの「会話」であった。

 人間よりも精霊との会話の方が圧倒的に多い、そこがルークスの最大の強みである反面、最大の問題点なのだ。


 だからまた考え抜いて唐突に言う。

「ひょっとして今朝精霊士室に行ったとき、僕が余計な事を言ったことが理由かな? 精霊士室の人間が危機感を抱いて報告したか、勝手にやってしまったとか」

 そこまで言って、間違いに気付いた。

「ああ、でも『部下が気を利かせすぎて重要な仲間を死なせる』なんて間抜けはしないか。となると、やっぱり今朝になって急に公爵が決めたのか。でも精霊士室からの報告なんて昨日と変らないし――何かあったのかな?」

 いくら考えても、突然口封じを決した理由が想像もできない。

「ダメだ。どんなに考えても知らない人のことは分からない」

 とうとう思考を諦めた。

「公爵の人となりを説明しましょう」

 フローレンティーナは語り始める。


 プロディートル公爵領は南部の中核都市で、昔から海上交易で栄えた拠点である。

 国王の弟を養子にして爵位を継がせてきた。

 現在の当主クナトス・ドルス・ド・ジーヌスは先王の弟、フローレンティーナの叔父にあたる。 

 有能で人望があり、貴族に限らず領地の民にも慕われている。

 領地は豊かで治安が良いとの噂だ。

 海外にも知己が多く、マルヴァド国王の娘を妻に迎え、幼い息子と娘がいる。

 優秀すぎるせいか国の頭越しに外交などをしてしまううえに、女王の臣下を取り込んでいる。

 性格は慎重かつ大胆、油断ならぬ人物である。


 ルークスには知らないことばかりだった。

 少年も自分なりに敵を知ろうとはしている。

 シルフを王都にある公爵の屋敷に幾度となく飛ばしたが、通りすがりのシルフさえ追い払われるほどの厳重な警戒で、遠巻きに観察しているのが現状である。

 おまけに学園が休みの延長を認めなかったので、明日にはフェルームの町に帰らねばならない。

「でも陛下が心配です。少しくらいなら学園をサボっても大丈夫ですよ」

 公爵が出てくることをルークスは懸念した。

「私は大丈夫です。騎士団が守ってくれますし、お友達もいます」

 と、女王は頭上のシルフにほほ笑む。

 フローレンティーナは自分よりルークスの身を案じた。

 王城にいては、いつ彼女の臣下が刺客になるか分からない。

 ならば軍が守るフェルームの町の方が遙かに安全のはず。

「それにルークス、あなたに期待しているのは敵を倒すだけではありません。味方を増やすこともです」

「僕が味方を増やす? 学園中にも、町の人にもバカにされてきた僕が?」

「その評価はひっくり返っています。あなたをバカにした人たちは、今頃自分の不見識さを恥じているはずです。きっと彼らはあなたに和解を求めるでしょう。そのときは許してあげてください。そうすれば、彼らはあなたの味方になるはずです。そしてあなたの味方は、私の味方となります。なぜならルークス、あなたが私の味方であることは揺るがないからです」

 人間関係が理解できないルークスは、一瞬天井を見上げ親しいシルフを認め、そして女王に顔を向け直した。

「分かりました。陛下の味方を増やすために、まずは自分の味方を増やします」

 消化不良の気持ちを残してはいたが、ルークスは故郷に帰ることに同意した。

 

 だが、彼らの想像以上にルークスたちは敵に遅れを取っていた。

 今朝ルークスが植物の精霊リーフと会話したとき、公爵側のシルフが内容を聞き取っていたのだ。

 通りすがりのシルフが、風と相性が良いルークスに近づくのは日常である。

 だからルークスにしろグラン・シルフにしろ、初見のシルフまでは警戒しきれない。

 二度目となると近づくシルフをインスピラティオーネが誰何するのだが、それは既に公爵の知るところだ。

 そのため要所で初見のシルフを送る対応が取られていた。

 その第一回目が今回である。

 城壁にいたルークスが突然中庭に駆け下りた。

 ただ事ならぬと判断した精霊士が、初見のシルフを送ったのだ。

 監視が無いと不自然と思われるので、面が割れたシルフを何度も送っては撃退させ油断を作る手間もかけている。

 その対応が功を奏し、リーフとの会話内容とルークスの怒り具合、次の行動と寄り道まで公爵に把握されていた。

 故に起きた事件である。


 敵が「間諜を司る」外相ら文官を支配しているという意味を、少年たちは十分に理解していなかった。


 風の大精霊の力が圧倒的がために、シルフを使っての水面下の戦いで遅れを取ったなどルークスはもちろん、インスピラティオーネでさえもまだ気付いていない。

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