∞. 猫一行の車中泊
「……それから、わたしはしばらくパークをさまよってたんだけど、サバンナ、キュルルちゃんと会ったとこね! そこにいい感じの寝ぐらを見つけて、そこに住むことにしたの。そのあとカラカルと出会って、かりごっことか昼寝とかして仲良くなったの。ね、カラカル?」
「何゛回゛聞゛い゛て゛も゛そ゛の゛話゛悲゛し゛す゛ぎ゛る゛わ゛よ゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛!゛」
カラカルはめちゃくちゃ泣いていた。ぼくだってそりゃ少し泣いたけど、カラカルはぼくの50倍は泣いてる。下手したらエピソード中のサーバルより泣いてるかもしれない。
「なんでアンタのししょーはセルリアンに食べられなくちゃならなかったのよ……。サーバルが気持ちを伝えようって時に、しかもサーバルは友達をなくしたくないって言ってししょーに弟子入り……う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!゛!゛」
「カラカルちょっとうるさいな……。でも、その時の気持ちをずっとおぼえてるから、わたしはセルリアンは絶対に倒すぞ、つぎは誰も食べさせないぞ、みたいな気合いになってるのかな!」
「それがサーバルの強さの秘けつってことなんだね」
サーバルが強いのは、「再び友達を失わないため」。悲しい理由だけど、そのおかげで、さっきみたいに厄介なセルリアンを倒せている。サーバルを鍛えたししょーこと、ラーテルさんってどんなフレンズだったんだろう。実際に会ってみたかったな。
そのあとしばらくたってもまだ涙が止まらないカラカルを二人でなだめていたら、さっきぼくを抱えてくれたフレンズが飛んできて、ぼくたちの目の前にすたっと舞い降りた。
「君、さっきはありがとうね。後ろのふたりは、もしやセルリアンを……?」
「うん!やっつけたよ!わたしはサーバル!」
「アタシはカラカル……ぐすっ」
「ぼくはキュルル。ヒトだよ」
「カラカルさんは一体何が……」
「無視していいよ!」
辛辣なサーバルである。
「あ、そうなの。とにかく、二人ともセルリアンを倒してくれてありがとう!私の巣も無事だったよー。そうだ、自己紹介。私はノドグロミツオシエ。ハチミツの在り処を教えるからミツオシエってね。そうだ!」
何かを思いついたミツオシエさんは、翼を動かして再び浮き上がる。
「セルリアン退治のお礼に、君たちにハチミツご馳走したげるよ!私の友達も一緒になるけど。どうかな?」
「いいの?行く行く!」
「そういえばサーバルの話にハチミツ出て来たし、ちょうどいいわね」
「ぼくはセルリアン倒してないけど、それでも良ければ……」
「いいよいいよ、二人も三人も変わんないし!それじゃ私についてきて!」
ゆっくりと飛ぶミツオシエさんについて歩いていく。彼女いわく、もう既にミツバチのいなくなったちょうどいいハチの巣があるらしい。
しばらく進むと、ミツオシエさんが叫んだ。ちょうどここからは見えない岩陰に先客がいるようだ。
「おーい!さっきセルリアン倒してくれた子たち連れてきちゃったんだけど、いいよねー?」
「いいぞー!あたしより先に倒しちまうツワモノはどんなやつ……」
岩陰から顔を出したそのフレンズは、ぼくたちを見て静止した。いや、サーバルを見て静止した。
サーバルはぽかんと口を開けていたけど、そのあとすぐに彼女めがけて駆け出して、彼女のあだ名を呼んだ。
「しっ……ししょおおおお!!!!!!」
「サーバル!サーバルじゃねーか!!!!!」
「生きてたんだね!生きてたんだね!!!」
「生きてる生きてる!いやー久しぶり!!!」
まさかの再会。抱き合う二人。衝撃の感動の展開。思わずカラカルを見たら、カラカルはまた泣きながら
「生゛き゛て゛た゛ん゛か゛い゛っ゛!゛!゛!゛」
とツッコミを入れていた。
まあ、何はともあれ、ししょーが生きててよかった。
ししょーことラーテルさん、ミツオシエさん、そしてサーバル、カラカル、ぼくの5人は、ハチミツを食べながら、ししょーの「その後」について聞いた。
「いや、あの日はヒグマんとこに遊びに行って、ハチミツを賭けてちからくらべしてたんだよ。そしたら思いのほか熱くなっちまって、気づいたら夜になってたんだわ」
「ってことはあの場にししょーは最初っからいなかったんだね……」
「おう。その日はヒグマんとこ泊まって、んで次の日の昼過ぎに帰ったら、寝ぐらはぐちゃぐちゃになってるし、サーバルはいないし、こりゃデカいセルリアンと一悶着あったんだな、と思ってよ。勝った?」
「うん、どうにか」
「さっすがあたしの弟子。一人前だ!」
「えへへ、やっと認めてもらえたよ」
ずっとお預けをくらっていた、ししょー直々の一人前の称号をもらって、サーバルは満面の笑みを浮かべた。ラーテルさんも嬉しそうだ。
一方でぼくたち残り三人は、ずっと会っていなかった師匠と弟子の会話に割り込みたくないし、というかじっくり眺めていたいので、うんうんと頷きながらハチミツを食べまくっていた。ミツオシエさんがハチの巣を見つけ、ラーテルさんが巣を壊して蜜を回収する。二人の取ったハチミツは美味しくて、みんなで完食してしまった。
「そうだ。お前ら、今日はもう遅いし、あたしの新しい寝ぐらに泊まってくか?」
「新しい寝ぐら?」
「そう。前の寝ぐらが壊れたあと、いい感じの場所を探したらちょうどいいのがあってよ。前より広いから、五人くらい余裕!」
「それじゃあお言葉に甘えましょ」
「賛成!」
ほどなくして着いたラーテルさんの寝ぐらは、かばんさんの家で見たジャパリバスの後ろ側に似ていた。
「ミツオシエ以外に誰かが泊まりにくるとか、久しぶりだな!」
「すごーい!前の寝ぐらより広いね!」
「このでっぱりは何かしら?キュルル知ってる?」
「押したら明かりがつくんじゃないかな?」
「そうそう、明るくなるんだよー!面白いよね!」
「ついた!あっ消えた!ついた!消えた!」
「何よこれ、ちょっと楽しいじゃない」
大人数で騒ぎながら、バスの室内灯をつけたり消したりするみんなに耐えかねて、寝ぐらの主であるラーテルさんが叫んだ。
「お前ら、目がチカチカするからやめろー!!!」
嫌そうな口調だけど、ラーテルさんは、ししょーは、嬉しそうに笑っている。サーバルも声を出して笑っている。カラカルも、ミツオシエさんも、ぼくも、釣られて笑う。
夜の草原にポツンとたたずむ、一台のジャパリバスから、明かりが漏れている。その中には、口が悪くて怖いもの知らずなフレンズと、ドジでおっちょこちょいだけど、まっすぐなフレンズ。そして、ハチミツが大好きなちゃっかり者のフレンズと、強がりだけど面倒見が良くて優しいフレンズ、そしてみんなの絵を描いているヒト。
スケッチブックに描かれたのは、猫一行の車中泊。再会した、ししょーと弟子のお話でした。
猫と師匠の車中泊 丁_スエキチ @Daikichi3141
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