5. 修行、成長、プレゼント
「こう来たらこう避ける!」
「こう?」
「そう、そしてこう!」
「こう?」
「そうそう、んでもって、バッツーン!って殴る!」
「こう?」
「そうそうそう!」
何もない空中に向かって拳を振るうサーバルを見守る。あたしの元で戦いの修行を始めて何日か経ったが、だいぶ動きがサマになってきている。動物だった頃は狩る側のけものだったぶん、こういうのに向いてるんだろう。
「はいよ、いったん練習はここまでな。ナワバリのパトロールすっぞ」
「はいはーい!セルリアンがいたらやっつけちゃうぞ!」
「そう言って、昨日、中ぐらいのセルリアンに追っかけ回されてたのはどこのどいつだったっけな」
「うっ……」
小さいセルリアンはある程度倒せるようになったが、まだまだ戦いに慣れていないって感じだ。せっかく広いナワバリとあたしの腕っ節があるんだ、これからもみっちり稽古つけてやるさ。
何度も日が沈み、また昇ったが、あたしたちの修行はまだ続いている。
サーバルはそこらのフレンズよりはだいぶ戦えるようになった。まだまだ危なっかしいとこがあるけれど。あたしが見てないと死角から攻撃されそうだ。
「後ろセルリアン来てんぞー!」
「うみゃっ⁉︎」
サーバルと同じくらいの背丈のセルリアンが迫ってくる。セルリアンの群れの最後の一匹だ。サーバルは慌ててジャンプして回避。着地してそのまま横を駆け抜け、再び跳ね上がり、側にあった木を蹴って更に高く跳ぶ。そして上からの全力パンチでセルリアンは砕けていく。
「危なかったあ。ししょー、ありがとう!」
「ちゃんと後ろも意識しないとダメだ。あたしが居なかったらどーすんのさ」
あたしはバカみたいに頑丈な身体してるからまだいいが、サーバルはわたしほどタフじゃないだろう。ダメージを食らうのは良くない。食われて元の動物に戻られたらなおさらだ。
「えへへ、気をつけるね。でもセルリアンを倒すときにししょーが居ないのって想像つかないなあ」
「いつまでもあたしに頼りっ放しはやめてくれよ。そうだなー、あたしのサポート抜きで今日よりデカいセルリアン倒せたら一人前だな」
「えー!無理だよ!」
冗談めかして話しているが、実際のとこ、サーバルはもっと強くなると思っている。あたしの教えた戦い方に、ジャンプとか木登りとか、サーバルの得意なことをうまく組み合わせている。ちゃんと考えて動いている。
ドジなフレンズに見えて案外、考えることが得意なフレンズなのかもしれない。不思議なもんだ。こいつが一人前になるのも、遠い先のことのようでいて実は近いのかもしれない。
セルリアンから逃げ回ったあの日、誰かを守らなきゃいけないって思いがいっぱいになって、ししょーのでしになった。そして一緒に修行して、けっこう長い時間が経った。ししょーのおかげで、わたしもだいぶ強くなったと思う。
ししょーと一緒に暮らしていると楽しいんだ。広いナワバリをあちこち探検したり、寝ぐらでおしゃべりをしながら一緒にイスでだらけたりするのが好きだから。
強くなるために体を動かすのはちょっと大変。でもそのおかげで、こないだはセルリアンの群れをほとんどわたしひとりでやっつけられた。わたしくらい背丈のあるセルリアンに襲われそうになったけど、ししょーのおかげで大丈夫だった。
いつも助けてくれるし、一緒にいて楽しいし、そしてわたしを強くしてくれたししょー。ふだんの「ありがとう」のことば以外でもお礼の気持ちを伝えたいなって思ってたら、ししょーの好きなものをあげればいいんじゃないかなって思いついたんだ。
せっかくだから、こっそり準備して、渡すときにびっくりさせちゃおう。
「ねえねえ、ししょーの好きなものって何?」
ししょーに直接聞いてみた。
「どうした急に?そうだなー、……ハチミツとか好きだな」
「はちみつ?」
「あー、見たことねえか。ハチは見たことあるだろ、あのトゲのついたブンブンいう虫」
「うん。痛いよねあれ」
「刺されたんかい。あれの巣の中に甘い蜜が入ってるんだよ。ハチには申し訳ないが巣をぶっ壊すと食えるんだ。めちゃくちゃ刺されるがとても美味い」
それはちょっとわたしには手に入れられなさそうだ。頑丈なししょーだからハチにいっぱい刺されても平気なんだよ、わたしが刺されたときは痛くてそれどころじゃなかった。
「あとハチミツの味がするジャパリパンとかも前に食べたことあるな。あれもすごく美味しかったなあ」
「ハチミツ味のジャパリパン……!ありがとう、さんこーになったよ!」
これならわたしでも手に入れられそうだ。
「参考?何の?」
「あっ、いや、えっと……」
「ははは、食い意地張ってんなあ。マジで美味いから今度見かけたらいっぺん食ってみ」
危ない危ない。ばれないように気をつけなきゃ。
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