4. 過去よ、私は強くなる
サーバルがセルリアンに追われてあたしのところにやって来た。腰くらいの高さのセルリアンが10体以上。ほんとに厄介事を持ってくるトラブルメーカーだ。
「どうやったらこんなにたくさん見つかるんだよ!」
泣きじゃくるサーバルについつい口調が荒れる。
「最初は1体だけだったから倒そうとしたんだけど、手こずってる間に集まっちゃって……。あのセルリアン、石がなくて倒せないよ?!」
「お前、石について知ってたのか。よく知ってんな。だけど全部のセルリアンに付いてる訳じゃねえからな!そういう時は、こうだ!」
セルリアンに向かって勢いよく駆け出す。いちいちこんなのに怖がるほどヤワでは無い。急所が無くとも、これくらいのサイズなら重い一撃をきちんと撃ち込めば倒せる。しかし、正面から突っ込むんじゃあ躱されてダメージを軽減される。ならどうする?
セルリアンまであと二歩ってとこでスピードを落とし、左右にフェイントをかける。雑魚セルリアンならこのタイミングで遅れと重心のズレが生じて隙ができる。そこで死角に回り込み、体重をかけた拳を一つバッツーンとお見舞いしてやればパッカーンと弾け飛んでくれるっつう算段だ。
敵に背後を取られる方が悪い。
「うおおお!!!かかって来やがれオラ!全員まとめてぶっ潰す!」
フェイント、と見せかけての正面突破、撹乱、力技、死角への移動、確実な一撃。次々と弾け飛ぶセルリアン達。あたしの手にかかればこんなもん一瞬だ。
おっと、黙って見てたサーバルの方に、残った一体が威勢良く飛び出した。
「うみゃっ?!」
慌てて手を掲げて身体を守ろうとするサーバル。なに、そんなもの必要なし。
パッカーン。と後ろからの拳がセルリアンを貫いて終了だ。
「あたしに背中を見せたのが悪い!」
これでセルリアンは全部撃破か。やれやれ。
「ったく、無事か?」
「……」
「おい、どうした」
「……すっごーい!!!」
いきなり大声出すなよ。いくら怖いもの知らずのあたしとは言え、びっくりはする。
「あっという間にセルリアンやっつけちゃった!とっても強いんだね!」
「まあな」
「助けてくれてありがとう」
「まあ困ったら頼れっつったのはあたしだからな。まさかその日のうちに頼られるとは思ってなかったが」
「ごめんね。あはは……」
急にしおらしくなったな。倒した今となっては別に怒ってはいないが……。いや、そういうことじゃないな、この表情は。
「お前、なんか言いたいことあるだろ、そういう顔してるぜ」
「……」
「らしくねえぜ、素直じゃないなんて」
「……あのね」
スゥと息を吸って、一言。
「私、あなたみたいに、強くなりたい!」
何を言い出すかと身構えたが、願いは至ってシンプルだった。しかし、あたしが闘うのを見て強くなりたいなんて、いささか単純すぎるような気もする。
「いきなりでごめんね?」
「……なぜ強くなりたい?」
「さっき襲われたとき、私がセルリアンに食べられるのも怖いけど、もし私の友達がセルリアンに食べられたらもっと怖いなって思ったの。ほんとに、それだけは絶対にダメだ、ってすっごく思ったの。だから、私……」
「わかった、もういい。だから泣くな」
サーバルの頬を静かに流れる二本の筋に、喋ってる本人は気づいていなかったようだ。
「えっ?あれ?どうして……?早起きでもしたっけ……?」
「ぐっすり寝てたろ」
たまにいるんだよな、こういう奴。自分でもよくわからない、思い出せない過去の大切な時間に囚われた奴がさ。
単純な理由だなんて考えて悪かったな、話は思ったより複雑そうだ。
フゥーと一つため息を吐いてから、答える。
「わかったよ、お前が強くなりたいってこと。それにお前、強くなれそうだぜ」
「え?」
「セルリアンをバツバツ倒したあたしを見て怖がらなかっただろ。大抵のやつはおっかながって逃げてくからな。多分向いてるぜ、こういうのに。だから」
ビシッとサーバルを指差して宣言する。
「今日からお前はあたしの弟子だ、サーバル」
「でし……!」
「そしてつまり、あたしはお前の師匠だ!お前を強くしてやるよ」
「ししょー……、ししょー!」
あたしはお前の熱い想いが気に入ったよ、サーバル。友達を守るため、上等だ。(……あとついでにあたしに頼らずに自分で自分の身を守れるようになってほしい。) あたしに教えられることはちゃんと叩き込んでやるよ。
こうして、あたしとサーバルは、師匠と弟子になったのであった。
「ところで、でしって何?」
「あー、そこからね」
締まらねえなあ。
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