第29話 二度目の生/山野井泰史『垂直の記憶』
山野井泰史は、正真正銘の世界的
活躍は登山だけに限らない。たとえ名前に覚えがなくても、知らず触れている事もあるだろう。たとえば『ゴルゴ13』の山岳エピソード、『白龍昇り立つ』に出てくる「山野井」とは彼のことなのだから。
そのキャリアはしかし、ギュチャン・カン登頂後の事故で一度断たれることになる。これが本書冒頭での話だ。
『垂直の記憶』を読むまで誤解していたのは、怪我も後遺症も、これが初めてではないこと。そしてそれは、登山家夫婦揃ってそうだ。
登山家についての本を読むと、少なからぬ登山家が山で亡くなっている。本を読みこの人は今と調べると、後に亡くなっていたりもする。ましてその寸前、事故や怪我ともなれば、僕が思うよりはるかに身近な事なのだろう。
8000m峰はすべて登攀され、残る冬期未登攀はK2のみ。この状況で残る未登ルートはほとんど極限、想像を絶する難易度ということになる。けれども、その機微を解する者は少ない。同じエベレストであっても、確立された夏季ノーマルルートと冬期南西壁とでは壮絶な難易度差があるというのに。
機微で言えば、知名度もそうだ。エベレストは常識に入る。K2も名高い。しかしそれ未満の高峰となると、たとえ8000m峰であっても急激に知名度は落ちる。むしろ、各大陸の最高峰――キリマンジェロ、デナリ(旧マッキンリー)、アコンカグアなど――の方が有名だろう。
山の高さは分かり易い。分かり易いがゆえに、難易度とは無関係に知名度の差がついてしまう。エベレストに挑むなら比較的スポンサーはつき易いだろう。けれども、それより難しい山は。いかんともしがたい、と言うには残酷なものを感じる。
かつての登山家にしても、もっと楽に資金を集める方法は恐らくあったのだろう。けれども、その方法で登れる山は果たしてどうなっていたことか。
事故から17年、『垂直の記憶』刊行から15年。彼は今も、山を登り続けている。
そのことも含めて、畏敬の念を覚える、とだけ言って結びにしようと思う。
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