第27話 天才と“三流”たち/福本伸行『天』
あるキャラクターの登場が、作者まで成長させることがある。そう書いた後で、当たり前すぎる例を思い出していた。
若年時代と老年時代とで共に主役クラスを張る男。初登場こそ『天』だが、スピンオフたる『アカギ』の方が今や有名だろうか。
赤木しげるの登場で激変した『天』。そんな印象を確かめるべるべく読み返すと、実は段階的に変化していることが分かる。
主役・天と名脇役・ひろ(1話目)。
不器用な時代遅れヤクザ、沢田さん(第3話)。
沢田さんの対戦相手側の老代打ち、室田(第12話)。
そして、かの赤木しげる(第16話)。
徐々に徐々に、初期の人情路線はなりを潜め、ひりつく勝負面が表に出ている。そんな蓄積が目に見えて炸裂したのが赤木しげる戦だったのだ。
特に沢田さんの登場は重要だ。ひろを代打ちの世界で試す直前の台詞たちは、明確に人情路線からの逸脱を示している。
「最近なにやってもたいくつだ……才能のない証拠。天才はたいくつなんてしないからな」
「ニュートンとかガリレオは、たいくつなんてしないさ……あいつら、引力なんていう目に見えないものまで見えて……この大地が高速で回っていることにさえ気がついてしまう」
「つくづくこの世は凡人で生きていてもしょうがねえ。俺なんて何見たってあたりまえに見えるだけだ……なんにも気がつかねえ……おまえはどっちかな」 4話冒頭
沢田さんがいるからこそ室田が登場し、赤木しげる登場の下地ができる。そして来る東西戦では、メンバー集めの中枢を務める。名キャラクターの登場には、周囲のキャラクターもまた必要不可欠なことが分かる。
その点では、ひろもそうだ。たびたび対戦相手に劣ることを自覚し、天や赤木しげるに教わる彼がいることで作品に軸ができる。名キャラクターと言えど、決して単独では成立していない。
付記:
ひろは現在連載中のスピンオフ長編、『HERO 』で堂々たる主役を務めている。そこには1巻目から「覚醒」した井川ひろゆきの姿があるので、『天』『アカギ』ファンは併せて確認されたい。
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