第25話 豪腕/島田荘司『改定完全版 占星術殺人事件』

 正真正銘の大仕掛けを考えついてたとして、最も大切なことは何か。

『占星術殺人事件』を読み終えてから、自信を持って答えるようになった。

 すなわち、その開示に至るまで観客を離さないこと、だ。


 長いこと読むのを後回しにしてしまっていた、と正直に言わねばならない。名探偵の孫、と言えばご存じの方も多いだろう。作品外で有名な事件があって、僕も本作の大仕掛けを知らされていた。ミステリーで、あらかじめトリックを知っている。ならそれだけで十分ではないかと。

 いざ読んでみて、それが大間違いだったと知った。むしろ、タネも仕掛けも割られてなお面白いのが名作なのだと。

 小ネタ、挿話、あるいは手記。驚くべきことに、作中がほぼ常に面白い。最初の手記だけは好みが分かれるかも知れないが、そこをこえれば何も問題はないはずだ。

 これは名コンビ、御手洗潔と石岡和己のお陰だろう。キャラクターが面白いなら必然、作品そのものも面白くなるとも学んだ。


 名探偵・御手洗潔の対戦相手は、シリーズを通してほとんど異種格闘技ヴァーリ・トゥードそのものだ。謎の館はもちろん、神木と対決しピラミッドと対決し、果てはファミレスのトイレと対決する。意味が分からないだろうが、すべて作中事実。しかもこれには、各々ロジカルな解決が用意されている。中でも僕はシリーズ第4作『異邦の騎士』を気に入ったが、これは1作目から順番に読んだ方がいいだろう。

『占星術殺人事件』はタイトルがお洒落どころの騒ぎではない。奇想と論理が作品を貫く、面白さに満ちた小説だった。つくづく、事前イメージは当てにならないと思わされる。自分の目でしかと確かめること。これも間違いなく、読書の醍醐味だろう。


付記:

後に吉敷竹史シリーズの1冊『奇想、天を動かす』に触れた時、またも名探偵孫の犯行を察してしまった。先に島田荘司の著作に触れておくよう、繰り返しお薦めしておきたい……。

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