第17話 思考の言語化/朝倉康心『麻雀の失敗学』

 ここ数年、言語化に凝っている。特に、思考ルートの言語化に。やる人が少ない一方、実りが大と気づいたからだ。

 地点はゼロからでいい。地道に蓄積し定期的に見直して行けば、結果的にかなり遠い場所まで辿り着ける。第6、7話でサイゼリア本を取り上げたのも、その一環と言えなくもない。


 本書の話に入ろう。この本はゼロからではない。達人の達人たる思考を克明に記した1冊になる。

 どれほどの達人か。日本最高レベルのオンライン麻雀サイト、天鳳。そこで打ったプレイヤーなら、およそ誰もが聞いたであろう名前だ。人間には不可能と言われ続けた四人麻雀の天鳳位(最高位)に史上初めて到達し、つい先日は別アカウントでふたたび達成した。控えめに見て、麻雀の日本ナンバーワン最有力候補だろう。


 それでも、と言ってしまおう、麻雀での常勝は不可能だ。実力一辺倒ではない、運と実力が絡み合うゲームなのだから。そして短期的に見れば、結果がダメならばミスに、結果オーライならば成功に思われ易い。

 圧倒的多数の陥穽に著者は陥らない。無論、頻度が低くともミスはする。だがそれを、一度は見逃したミスとして書き残す。「失敗こそ進歩のチャンス」と。たとえそれが、当人以外ではミスと思えない事でも。


 本書はだから、さらなる高みへの求道書だろう。たとえば即リーチの一手を振り返る「失敗学4」。あの前提から自省する人間が、果たして他に何人いるだろう。

 即座に参考になるかと言われるとやや悩むが、それは些細なこと。どうしても役立てたいなら、割り切って真似できそうな部分を真似すればいい。たとえば言語化し自省し続ける姿勢ならば、比較的(あくまで比較的、だが)真似し易い。そしてこれは、別に麻雀に限った話ではないはずだ。

 ごく私的な望みになるが、いつの日か、今度は「成功」の方を取り上げた1冊も読んでみたいものだ。技術と運の噛み合った、一種の到達点としての1冊。これまた、興味深い読み物になることだろう。

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