第12話 約束された豊穣/宮下志朗・小野正嗣編著『世界文学への招待』
間違っても易しいとは言わない。けれど、触れてみて欲しい本もある。
本書は放送大学のテキスト、つまり講義用の教科書であり、各地域ごとに代表的な作家たちを紐解いている。いずれのテーマも基礎知識を含め20p以内に凝縮されており、各々単体で読むことも可能。
冒頭の科目紹介を皮切りに、どれも一筋縄ではいかないテーマが並ぶ。藤井光の戦時下アメリカ文学、小野正嗣のアフリカ・フランス語文学、岡真理の現代パレスチナ文学、渡辺直紀の近代韓国文学。宮下志朗の20世紀前半パリの文学的交友(本の友の家、シェイクスピア書店が軸)、マイケル・エメリックの世界経由で再度見出された日本文学もある。
寄稿するのが各大学の一線級なのも嬉しい。学問上では一目置かれつつ、世間的には必ずしも有名でない土地の文学。そんな守備範囲の人にとって、放送大学のテキスト執筆は熱意の入れどころでもある事だろう。
いずれの内容も本来、所属大学の講義やゼミ以外では触れづらいものだ。「招待状」の歯ごたえと好奇心の充足は保証する。
ボリューム満点の1冊であり、個人的にはまだ全作品に触れてみた訳ではない。それでも、講師陣の情熱は十分伝わったように思う。
本稿はだから、とても良さそうなガイドブックのおすそ分けと言うことになる。
この文を読んでいる人の中には、これから夏季休みに入る人もいるだろう。不意にできた空き時間、もし読書の幅を広げたくなったならば。まずはこのテキストに手を出してみるといいかも知れない。
付記:
『世界文学への招待』を含め、放送大学のテキストは一般の書店で入手可能。Amazonやhonto、楽天ブックス等でも取り扱われている。また放送大学の講義は、BSにてほぼ一日中放送されている(契約不要)。
付記2:
著者や翻訳者として名高い講師も多く、そちら方面を追ってみるのもいい。読んだ中で個人的に面白かったのは『紙の民』、『アラブ 祈りとしての文学』、『アデン・アラビア』辺り。
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