第9話 生きて、書き続ける/夢枕獏『秘伝「書く」技術』

 吟味を要する、味わい深い創作本もある。それが本書ということになる。

 作者の知名度は抜群、技術も比較的具体寄り。冒頭のカード式創作法はその最たるものだ。けれども、大部分はそのままでは役立てにくい。本書が真に役立つのは連載時、ある程度売れてからと推測されるからだ。


 主に売れっ子の為の本。理屈としてはあまり売れない事になる、のだが。

 狭いはずの本書は、しかしそれなりに読まれてもいるようだ。仕掛けは前回、少しだけ書いた。すなわち、人生論まぶし。この本は人生論として売れ線を確保しつつ、一方でニッチな技術を書いてもいる。書きたいことと売れるであろうことの両立。広く言えばこれも技術の内だろう。


 人生論と技術。主軸はどちらかと言われれば迷う。ただ心情的には、技術であるとまずは述べておきたい。その技術とは何か。長く書き続けることと、それにまつわることへの備えだ。

 書き続けるとは必然、生き続けることでもある。ゆえに、長い目で見て幸不幸は避けられない。たとえば、人は誰しも世を去る、それが立て続けになることもあろう。書き続けるのなら必然、幸とも不幸とも向き合わねばならない。


「ぼくも原稿を書けない時期というものはありました。それはぼく自身の作家としての能力の問題のときもあれば、環境やらの別の問題のときもあります」p107


 禍福と真摯に向き合うこと。そんな中つむがれる、技術と率直な吐露を交えつつの「一生続くスランプはない」。この言葉の何と心強いことか。人生を通し技術を語り、技術を通し人生を語る。だからこれは、両者不可分なんだろうな。


 と、こう励まされる一方で、何気ない場所が心底怖くもあるんだ。たとえば僕はこの場所に物凄く怖さを感じたんだが、どうだろう。


「当時は同人誌などに書いていたんです。SF関係とか、いろんなところにね。そういった界隈にも才能のある人たちはたくさんいたんですが、意外とみんな、書かなくなるんです」 p142

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