第8話 ただ1冊を挙げるなら/石崎洋司『黒魔女さんの小説教室』

 たまには児童書を読むかと、そんな気分だった。見かけたのは藤田香の表紙。ほんの1年前のことか。愛読した『悪魔のミカタ』、もうあの絵で新刊は出ない。

 結局『黒魔女さんが通る!!』に決めた。1巻と外伝、キャラクターブック。その隣が『小説教室』。いまどきの小学生にはこんな本もあるのか。ついでの軽い気持ちだ。

 小説を気に入った、とは言うまい。黒魔女の師弟コンビに好感を抱きつつもだ。年を食い過ぎた僕の問題、とは念のため言っておく。僕にとって面白かったとする。大人向けの一方で、大ヒットすることは恐らくない。


 問題はここからだ。『小説教室』を読むと、こいつが面白い。同じ位の年齢層向けのはずなのに。幾度となく読み返し、ほんのわずか大人向けと気づく。そりゃそうだ。創作にはある程度の読み書きが必須なんだ。


 創作本には大きなジレンマがある。


・実際に創作する者は稀

・判断基準が面白さやネームバリューになり易い

・ゆえに、肝心の創作手法について問われづらい


 人生論まがいが出るにも理由があるんだ。そっちの方が市場は広い、あながち間違いとは言えん。

 だが恐るべきことに、と言ってしまうが、その点『黒魔女さんの小説教室』は完璧に近い。キャラクターが小説を書き始める体裁で、創作しない人間にも読ませる気満々。ネームバリューは無論、一冊の本として十二分。なおかつ、創作手法が極めて具体的。

 確かに、指南ひとつひとつは初心者向きだ。そのひとつひとつを丁寧に拾い、時には秘伝の技術を授けてみせてる。間違いなくプロの仕事。たとえば、「冒頭の書き方」は最たる物だろう。ああも具体的、かつ簡潔とは。


 創作本を何冊か選ぶのはむずかしい。だが1冊なら簡単になった。

 たびたび薦めて、結局50冊近く売れたはずだ。中には創作をしていない人が読んで、読解のヒントを得てもいた。思ってもいなかったこれは、なんとも嬉しい誤算だ。


付記:今年1月には青い鳥文庫版が出た。現在は電子書籍でも入手可能。

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