第7話 「おいしさ」のミステリー/正垣泰彦『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』
もう一回だけ、同じ本について書く。面白さの内、ミステリー的な側面に触れておきたいからだ。
「おいしさ」。本書はありふれたこの言葉を定義し、さらに具体的に検証している。こいつは真摯な研究であり、同時に上質なミステリーでもある。
そもそも、「おいしい」とは何だろう。ランニングの後では塩気が、二日酔いの身には冷たい水が恋しい。不調で寝込むならお粥。何気なく使う言葉でも、発せられるシチュエーションは実に様々。では一体、「おいしさ」とは何なのか。
「おいしさ」とはひどく曖昧な概念であり、決して料理単体で完結するものではない。ゆえに、複合的な「おいしい」組み合わせこそが肝となる。
要素の詳述は避けるが、この視点からたどり着く「真相」には何とも唸らされる。サイゼリアのような外食チェーン店で求められる「おいしさ」とは、ハレの日のそれとは全く異なると気付かされるだろう。それも極めてロジカルにだ。
時折サイゼが「まずい」と称されることもあるが、それが一面的な見方なことも分かる。もう一面とは何か。言うところの「まずさ」が圧倒的多数にとっての「おいしさ」であること。そしてそれを、自覚的に提供していることだ。
おいしくすることは実は容易い。調味料に限らず、業務用の既成品は豊富に揃っている。一方で、程々に留めるのは難しい。
敢えて選ばれた、控えめな「おいしさ」。控えめ故の状況の選ばなさは、決してサイゼだけでない。それはたとえば、ココ壱の普通なカレーでも明らかだ。
本書を読み終えたならば、タイトルに目が行くことだろう。すなわち、『おいしいから売れるのではない』の真意に。「おいしさ」を決めるはあくまで客であり、ゆえに『売れているのがおいしい料理だ』と自戒せねばならないのだと。
丁寧に読んだ者は、振り返り気付かされるのだ。「おいしさ」を解明することで、タイトルの意が激変していることに。これをミステリーと言わずして、果たして何と言おう。
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