第6話 サイゼ社長の薄い本/正垣泰彦『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』

 いわゆるビジネス書、と括るとどこか後ろめたい。そんな本を去年読んだ。

 教訓や自慢話はつまらん。運を自覚しているならまずまず。半ば引退後、衒いがとれた代物なら非常に結構、とこれは後で気づいた。気づくほど読んでみたのは、ひとえにこの本の影響だ。


 自伝のつもりで手に取る。妙な本だとすぐ気づく。自伝もそこそこに、仮説と具体的な検証。考え方がメインなんだな。なかでも面白かったのが、こんな箇所。


 ・味を要素で評価する

 ・最初から完璧にやろうとしない


 そう、最初は下手でいい。始めること。定期的に振り返り、考え続けること。絶えず行うそのためにも、まずは言語化が必要なんだ。


 もうひとつ面白かったのは、規模が増すにつれてやり方が変わることだ。考えようによっては、ほとんど無私に近づいて見える。

 ビジネスに無私。別に建前の話じゃない。事業継続を旨とするなら、人材教育・待遇改善・公正な評価について考えざるを得ない。たとえば売上はコントロール不能なため評価対象とせず(!)、コントロール可能なことのみを評価対象とするのだとか。


 200p少しの薄い本。再評価と重版は偶然だが、しっかり売れたのは本の力だ。ビジネス書にもフォーマットがある。済まそうと思えばいくらでも容易く済むんだ。そいつをしなかったのは、企画した奴と企画を通した奴の力も大きいんじゃないか。実際、この日経ビジネス人文庫には一癖ある本が多いんだ。もう一冊を挙げるなら、アンケートとその解釈な『CoCo壱番屋 答えはすべてお客様の声にあり』(宗次徳二氏)も面白い。


 創業者の思考を丁寧に残す本、考えようによっては立派に評伝だろう。わずか200pの、あまりに濃密な伝記なんだ。


付記:正垣泰彦氏は2009年にサイゼリア社長を退任、現在は代表取締役。エピソードを軸にした文は、サイトNIKKEI STYLEの連載再録『暮らしを変えた立役者 「サイゼリヤ」創業者・正垣泰彦氏』で読める。

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