第4話 武人/冨樫義博『幽遊白書』(暗黒武術会編)

 影のあるキャラクターは好物に入る。それが武人と来ればこいつはたまらない。では大元、その好みを作ったのは誰か。

 間違えようがない。戸愚呂兄弟、その弟だ。


 十何度目だかの『幽遊白書』、読み返してみたんだ。6巻の登場当初は「闇ブローカー、戸愚呂兄弟!!」と恐れられてた。この段階で暗黒武術会を予定していたら、あの優勝者のとでも言わせてるんじゃないか。ともあれ戸愚呂弟は人気が出た。人気が出たなら必然、キャラクターを書き込むことになる。

 闇ブローカーはかつて武術家と言うことになり、主人公・浦飯幽助との戦いを通じ武術家に戻っていく。力を求め続けた果て、悲しみを湛えた武術家に。


 初めて戦った時は「オレたち兄弟はふたりでひとつ!!」で、大会の決勝戦前は「ジャマだ兄者」「オレは品性まで売った覚えはない」。

 この「品性まで」が泣かせる。魂までとは間違っても言えない。力を求め妖怪に生まれ変わった身。魂はとうに売った、だからこその「品性まで」なんだ。

 台詞の繊細さで言えば決勝直前、戸愚呂弟と対峙したかつての仲間・幻海もそうだ。己の無力を噛み締めつつ願うは、勝利でも奇跡でもなく「せめてあいつの目を覚まさせるだけの力を」。「せめて」がまた泣かせる。もはや敵わぬ身と承知の上での痛切な願い。これまた、揺さぶられる言い回しだ。


 決勝のさなか。覚醒した浦飯幽助を前に、戸愚呂弟は内心つぶやく。「オレは初めて勝敗の見えぬ戦いに身をおけるかも知れない!!」。ここまで来るともう、本当に一貫性があるんだ。勝つにしろ負けるにしろ、過去の戦いは一方的なものだったとの想像がつく。そして後者の過去については、追って語られた通り。


 登場時と退場時、同じキャラクターでもほぼ別に見える。キャラクターが作者と共に成長していったんじゃないかな。

 既に読んだ人も今一度、『幽遊白書』を読んでみてくれと思う。単行本で言えば、6巻から13巻までのことだ。

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