第1話 「ソ連百合」顛末/南木義隆『月と怪物』

 なぜこんな所にと、そのとき思った。

 なぜこんな所に、こんなレベルの短編がと。


 言ってしまえば無名な、ネット上の公募賞に過ぎないはずだった。できたての新人賞は一方で、待ち望まれてもいたようだ。その盛り上がりは、余所者の僕でも感じられた。

 何かあるかも知れん。気まぐれに覗き、果たしてはあった。それも2つも。内ひとつが表題の代物という事になる。


 百合。女同士のなにがしかを描く、このジャンルに抱いていたイメージを言おう。親愛、友愛、あるいは好感。だがこの短編『月と怪物』はどうだ。応募はした、どう読むかは貴方次第。こういう所業に僕は弱い。真面目に読んでやろうじゃないか。とんでもない思い上がりだ。結局のところ、真面目に読まされたんだ。


 あらすじから既に、その異形は明らかだった。


「舞台はソビエト連邦。アルコール中毒者の親から家出したエカチュリーナ姉妹は首都でホームレス生活を送るが、同じくホームレスの老人による密告によって当局によって捕縛され、ソビエト連邦が極秘に行っていた宇宙開発のための専用施設で育てられることとなる」


 読後の放心。応募作の数字を確かめる。「PV 23:好き 1」。何か掘り当てたと、そのとき気づいた。


 しかしよくぞ応募してくれたもんだ。最初から諦めたらこいつはまだ幻だった。同人誌に載っていた知られざる秀作。お話なら面白いが、現実としてはつまらん。

 無論、運はあるだろう。結構。手を伸ばさない者には糸口さえない。こう考えてみると、「友人に薦められ応募して」なあれは、案外本当なのかも知れないな。


 読まれるかどうか、こいつははっきり運がある。だが試しさえしなければ、運があるかどうか、分かることはない。受けてみないことには。

 同時に。周りに「こいつは凄いぞ」と言ってみないことには分からないと、臆面なく誰かを煽ってもおこう。獲物を見つけたなら、そいつを隠しておくことはない。どこか表へ、飾りに行ってみるんだ。

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