第218話:『焔』を纏いて 1
「久遠、
互いが反応したことに互いが驚き、聞こえてきた内容に、理解が追いつかない。
「まさかね、ここで君達姉弟に会うとは。僕の奴隷であるしずくちゃんとだけ会うはずだったんだけどね」
そんな言葉に、二人は動きを止めた。
「「……え?」」
顔を見合わせ、次に発した声がまた一緒だったことも、それは彼、彼女が偽名を名乗り偽り、その本名が同一だったことに姉弟ということの証拠でもあるようであり。
だから、互いの反応と驚きに、その事実を発した男が動いたことにも反応できないままに。
「ぐっ――っ!?」
「……なんだよ。邪魔するなよ。弟君」
「……はっ。邪魔するやろ……好きなもん守るんやからな」
――いや、反応したからこそ、その悲劇は起きた。
本来ならその一撃が――B級殺人許可証所持者『ラード』の一撃が向かうのは彼女の胸元であった。
だがそれは、咄嗟に動いた彼によって防がれる。
だけどもその一撃は鋭く。
その腕がずぶりと、彼――
彼女――
それが。
姫達『月読の失敗作』と呼ばれた彼女達が『世界樹の尖兵』と呼ばれる水無月スズの素体と戦っていた頃。
冬と枢機卿が世界樹の内部へと侵入を果たし、内部を索敵していた時。
世界樹裏で起きていた、もう一つの戦い。
「は~……せっかく久しぶりに、しずくちゃんの胸元を内部から触りつくしてやろうと思ってたのに、なぁ~……」
貫通したその腕をゆっくりと嬲るように時間をかけて抜き取ると、その腕に纏わりつく赤いぬめりを帯びたいくつもの筋が、腕と共に松の胸元から溢れ出ていく。全てが抜けた後には、一斉にそれは溢れ出して松の体を濡らして膝をつけさせた。
その、ラードのてらりと赤く塗れる手。
そこにはびくんといまだその赤を吹き出す液体を体全体に巡らせるはずのモノが握られている。
「……な……それを……っ! か、返しなさいっ!」
雫が倒れ込む松を抱き留めると、致命傷となったその傷口に『流』の型を流し込んだ。
その流し込んだ型が何も治癒しないことに、そこに治すべき物体がないこととにすぐさま気づいて憎き相手がその手に持っているモノがそれであることを理解した。
ラードも知っている。
彼女が、『流』の型の使い手であることを。
彼女が、医者として、裏世界、表世界で名を馳せていることを。
彼女が、そこにモノがあれば、いくらでも治せる名医であることを。
『
それは、冬の後輩、暁未保の目の治療の一件でも理解できるであろう。
裏世界の毒薬の試薬品を使われて、失明寸前だった未保を、彼女は事も無げに治している。
それは彼女の目が、まだ、あったからだ。
型式は『想像』と『創造』の力である。
だが、その型式の中でも治すことに長けた『流』の型でも、克服できないこともある。
彼女の域に至っても、そこにモノがなければ――型式で、無から有を創り出すというまるでファンタジーに出てくる回復魔法のような力は、持ち合わせられていない。
取り返そうと、すぐに手を伸ばす。
届きはしない。それは近い。すぐ傍だ。なのに、遥か遠くに感じるそれ。
動けばいい。
だが、そこまでの時間はなく。
それに手を、向けることしかできなかった。
「欲しいかい?――」
ぱきゅっと。
いとも簡単に。
「――でも。くれてやらないよ」
それは。
内部に残った血液を絞り出されながら、握り潰された。
「ぁ……あぁ……っ!」
「君のすべてを、奪いたいんだ。君のすべてを見たいんだ。だからさ……」
「あぁ……あああぁぁぁぁっ!?」
狂ったように、『流』の型の治癒の力が松に流される。
流された型式は、彼の体を治癒するが、物理的にない臓物を治す力は、彼女の扱うこの力にはなかった。
もしそれが出来ているのであれば、冬の姉である雪も自分の目を犠牲に彼の目を『
だらりと力を失う恋人の体。
自分の『流』の型はあらゆる人を助けてきた。それは表、裏世界に関わらずに。
なのに、自分がもっとも必要な時にその力は恩恵を与えてくれない。
身体的な傷は治ってその場にいる。
傷一つなく彼の胸元だけが上下しないその様に、血と共に命が流れていったのだと感じた。
「まずは、君の。
君が探していた弟君を――
目の前で殺されて、歪む美しい君の顔を、
見せてくれないか」
これが、C級殺人許可証所持者『
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たいっへん申し訳ございません!
前回の172話で
※前話も修正済みです。
『暁』だと
この未保も、美保ってよく書き間違えます。
ただでさえ香月店長と名前被ってるのにどれだけ後輩ちゃんは被ってるのかと。
永遠名『冬』と久遠『秋』と常立『春』、後出てきてないのは『夏』ですね(謎
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