第189話:繰り返す先へ 6


 俺が知りたいことはいくつかあった。


 いや、勿論。

 チヨのコスプレを毎日拝むべきではあると心は叫ぶが、どれが似合うか巫女装束はいい。最高だ。知りたくて仕方がないが次はチャイナ、いや、アオザイ……悩む。それよりも知りたいことはある……制服? 夢が膨らむ。フフフ




 まずは、夢筒縛が水無月スズ――つまりは、冬の恋人の一人をなぜ殺す必要があったのか、またはスズを使って何をしようとしているのか。というところを知ろうと思った。

 とはいえ。やり直しが始まったあの時、スズは破砕機に吸い込まれる石ころのように、夢筒縛の腕に文字通り喰われて絶命していたことと、『人喰いマンイーター』という夢筒縛の代名詞でもあるあの力を考えると、体内に吸い込んだということが正しいのかもしれないと仮定した。


 殺す必要があった、ではなく。取り込む必要があった。

 そう考えるほうが自然な気がする。なぜなら、彼は『縛の主』なのだから。なんの力も持っていない娘を手に入れようとすること自体おかしい。

 そうなると、スズはなぜ夢筒縛に取り込まれる必要があったのか、というところを調べなければならない。


 そう考えた時、妙にしっくりきた。

 夢筒縛はあの時、嘘か本当かはわからないが、スズのことを『自分の娘』だと言っていた。だから俺は自分にも関係しているのかと思って、ほいほいと連れて行った。


 そんな彼女が、自分と関係があるとしたら……

 おそらくは、俺もスズも、『縛の主』としての仕事に関係している。

 世界樹の地下。薄々は分かっていたことだが、あの最奥で行われていた実験に関係しているのだろう。

 あの実験に俺も関わっているというのもあまり考えたくはないのだが、そう考えるのが妥当だ。


 だからそこをまずは皮切りに調べていこうと思った。

 それを簡単に知ることができるのか、という所が何より困難ではあるのだが……


 夢筒縛に直接聞いたら、俺は、あのときのように殺されてしまうのだろう。

 このように、次もやり直せるとも限らない。いや、おそらくは条件次第でやり直すことは出来るのだとは思うが、その条件さえも今は不明だ。

 そう考えると慎重に調べる必要がある。


 だが、調べる手がかりがスズとなると厄介だった。


 なぜなら俺は、冬達の陣営と敵対する勢力に属している。

 これから表面化する、冬陣営こと、S級殺人許可証所持者『ピュア』率いる世界樹を壊そうとする反抗勢力と、世界樹を護らんとする、S級殺人許可証所持者であり四院の一人『縛の主』な夢筒縛率いる『月読機関』。


 その月読機関に属しているのだから、おいそれとあちらの勢力に入ることなぞ……



「……やり直してるから、まだこっち陣営だと知られてないな」



 なんだ。

 この時期ならまだいくらでも向こうとコンタクト取れるじゃないか。

 まだ向こうも戦力が整っていない今だからこそ、色々調べることもできることもあるだろう。


 冬達にコンタクトを積極的にとって、状況を確認しようと思う。

 最近仕事をもらったし、冬の恋人の命を救うことも出来たのだから、少しは好感度も上がっているだろう。


 だが、まさか……


「おい」

「え? はい?」

「お前もここで働いている、で合っているか?」

「合ってますよ?」

「……お前が、あの制服を、着る、のか……?」



 冬と冬の恋人達が働くファミレス『ミドルラビット』で、俺はまさかこいつが女装趣味があるなんて思っても――


「――なわけないでしょう!」


 そんなことを言う冬だが、恋人が三人もいるこいつのことだ。趣味も多才なのは間違いないはずだから、そういう趣味だって隠し持っているだろう。

 俺でさえあのコスプレと言うものがあんなにいいものだとは思わなかったのだから、こいつもきっと……。


「あら。それいいわね。今度冬君に着させましょう」


 ファミレスの店長である凄腕の情報屋、香月美保店長の一言で、ファミレスの女性陣が一斉に色めき立って冬のファミレス制服を新調されることが決定した。



 まさか。本当にそういう趣味がなかったとは。

 ……冬には、申し訳ないことをしたと、思っている。






□■□■□■□■□■□■□■





 冬達と行動を共にするにあたって、冬達側の色んな情報を仕入れることができた。


 ……まさか、あれほどまでに冬が何も知らないとは思っていなかったので、情報をどうやって手に入れようかとか、迷いはしたのだが……。

 冬の人脈とは素晴らしいもので。冬の姉である『ピュア』とA級殺人許可証所持者『シグマ』から情報を仕入れることができた。



 勿論……



「『縛の主』の子飼いが、よくもまあ……」

「……なあに? 冬から情報手に入れようとしてるわけ? 残念でしたー。あの子、な~んも情報持ってないから無駄よー」



 ……ああ。それはもう知ってるし、後悔した。




 俺と言う存在がいかに重要で、敵に回せばどれだけ警戒すべき存在なのか教えるためにも、この戦いは避けられなかった。



 力の誇示。

 俺はこんなにも必要な存在だとアピールする。

 俺はこの時期は、冬と同じくC級殺人許可証所持者だった。

 そのC級殺人許可証所持者が、持ち得ない力を持ち、且つ、上位所持者を脅かす程の力がある。

 以前はA級まで上がった俺だ。それだけの力があると、自負しているし、世界樹の尖兵として戦い続けてきた記憶があるのだから。



 その、圧倒的なまでの力を見せ付けることで、この二人から協力を漕ぎ着ける。場合によっては、世界樹の内部の情報提供者として、スパイのようなことだってやれることも、見せ付ける。


 そうすることで、ピュア達に、俺が世界樹陣営であるという事実と先入観を払拭させ、俺を協力者だと思ってくれるはずだ。


 自分の力には自信がある。

 これでも『縛の主』から直接型式を教えてもらったのだから、そこらへんの奴らとは出来が違うと自負している。


 そして今、俺はC級殺人許可証所持者だ。

 向こうも殺人許可証を取得して間もないルーキーが、型式を自在に扱えてS級殺人許可証所持者と対等に戦えるとは思ってもいないだろう。



 その隙を利用させてもらうとしよう。




 だが……





「『氷の世界ジュデッカ』」

「『刻渡りターンエンド』」





 『刻』は止まり、『雪』は舞う。



 まさか、この二人が、こんな壊れ性能の化け物達だとは思ってもいなかった。




 時間は止まり、極寒の世界が広がり雪が舞う。


 ああ、まるであの白い世界のようだ。


 そんな二人の型式は美しかった。

 このまま刻を止められて死んでいくのもいいかもしれない。


 やり直すことができる現状を知っている今だからこのように自分の生に他人事に思えているのかもしれない。

 次に死んだときに、やり直せる保証はないのにな。


 なにもかも忘れて幻想的な世界の中で散らすのも悪くないとか思ってしまったのだが、刻を止められたのに自身がこうやって思考出来ているのが不思議で。



 そんな俺を見る、シグマもまた。


「……この世界の中で、俺以外に動けるとか、有り得んだろ……」


 驚いているが、俺も驚きだ。

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