第207話:繰り返す先へ 24

 いきなり現れた強敵メイドが何者なのか。

 今までのやり直しでは出会わなかったからこそ、やはり、何かが少しずつずれ始めていると確信していく。



 その原因が一体何なのか。

 でも、そんなことを知る余裕も、調べる余裕もなく、やり直しは何度も発動される。

 そこまで時間がない、というのも確かだし、この女狐に出会って戦闘になれば、余裕で死ねそうだ。

 必死に逃げては『縛の主』を目で見てやり直しだ。


 だけども、繰り返している中で、そのメイドに関わるだけでは大きな変換点はなかった。

 いや、彼女に関わると大きな問題が発生したのは確かだ。


 なんだ、あの機械兵器ギアというオーパーツは。

 あんなのが襲い掛かってきたら誰だって死ぬ。

 現に、関わったときに機械兵器ギアによって冬が一瞬で殺されてしまっているところを目撃している。

 ただ、俺が関わらないと撃退に成功しているようだったので、俺は彼女に関わるのは必要最低限とした。


 そして、関わったことで冬が死ぬからか、一気に終焉が加速する。どこにもいいことがない。だけども、一応は何パターンかは経験しておく。


 関わる、関わらないどちらにしても、結局世界は『縛の主』のものとなる結末は変わらなかったのだから、彼女には関わるだけ無駄であって、このずれの原因や違和感は別の要因があるのではないかと考えるようになる。 




 そして、ずれてきた知らない未来への確信と、その要因を探すために、俺はまたやり直しを繰り返す。





<お前は俺とは違う>

<そりゃそうですよ。僕は貴方のことは信じられません。僕の大切な人を奪ったのですから>

<俺は……『縛の主』から世界を救えると思って……だけど、こんな結果になるなんて……>

<救える? 『縛の主』から? なにを。……何から何をですか。貴方がやったことは破滅への手助けですよ。見れば分かるでしょう? こんな、滅んだ世界で何をしたいのですか? 何が出来るのですか?>

<俺が……手助けをすることが、間違って、いたのか……?>

<間違っていようが間違っていなかろうが、今更ですよ。直せない。もう、貴方は、松君も瑠璃君も、みんなに手をかけたんですから>

<……『縛の主』が間違っていた――いや、あいつを俺がなんとかしようとすることが間違い、か……>

<貴方も共犯ですよ。なぜ貴方は『縛の主』をあんなにも嫌っているのに助けるのですか。貴方がこちらにいてくれたら、どれだけ……>


 セピア色にしか見えなくなったその世界。

 あの少女を『縛の主』が手に入れ、奪還した時点で起きた裏世界への蹂躙。そしてそこからあふれ出た悪意による表世界の蹂躙へと至り、破滅へと進んだ世界。


 永遠名冬が『ラムダ』として許可証剥奪された瞬間から始まる、『縛の主』の復讐劇と確定した未来。




 敵となった彼と、終わりくる世界の中で、命の奪い合いをしながらそんな話をした。




 俺は今まで。

 何も考えていなかったのではないかと思える程に、痛感した。

 根本的な部分を勘違いしていたのだと思い知る。



 何で俺は、『縛の主』と関わる必要があったのか。

 あれだけのことをしたあいつに、なぜそれでもあいつの味方をしようと思っていたのか。


 親だから?

 まだ情が残っている?


 ……そんなわけがない。

 ただ、凝り固まっていただけだ。やり直し続けて同じことをし続けすぎて柔軟な考えが何一つなかった。


 そう。なぜ、俺はあいつの陣営で戦い続ける必要があったのだろうかと。

 あいつの元にいても世界が滅ぶだけなのだから、これ以上あいつの傍にいなくてもいいのではないだろうか。

 であれば、もっと別の視点からこの戦いを見てみたら何か分かるのではないだろうか。






<なんであんなこと……俺を信じてくれてたんじゃなかったのか……?>

<信じていましたよ。……でも僕が、最後の最後に、心の奥では貴方を信じられていなかったってことなんだと思います>

<……ああ、元々俺は敵だ。信じてくれるとは思っていない。思ってないが……なんで、死ににいくようなことを>

<スズが死んだことがわかったからこそ、かもしれませんね。もう、スズであった彼女達を殺し続けるのにも疲れたからかもしれません>

<……そう、か……>



 あるいは、戦いの最中。

 それは、俺の今までの誰も信用してくれないであろうその話を伝えて、その話を信じてくれると協力してくれた彼が、最後の最後で倒れて看取ることになった時。



 ……おかしい。

 やはり、大きくずれていく。


 『弦使い』の『彼』に疑問に思ったのは、この時だ。

 『鎖姫』に関わらないことを前提ではあるが、どのやり直しでも冬は『縛の主』に殺されるはずであって、『世界樹の尖兵』に殺されるようなことはなかったのだから。


 彼だけが、妙にずれる。





<貴方は、何がしたいんですかっ! 皆を裏切ってまでして!>

<俺は……もう、何もかもがどうでもいいんだ……>

<貴方がどうでもいいとしても、ここに生きている僕らにとってはどうでもいいことじゃないんですよっ! こんな状況になることが分かっていたなら、どうしてっ!>

<いくらやり直しても、結果は変わらないからだ>

<何を……? いや、やり直すとか、そんなこと……っ! 僕達はここで生きているんですっ! 僕達は時間を巻き戻すこともできなければ、戻ってやり直せるわけじゃないんですっ!>

<やり直せない……?>

<やり直せるなら僕だって。……こんな状況になる前になんとかしたかったですよ……っ>

<やり直し……やり直せるなら……?>




 俺が彼等を裏切って、全てを壊した時もあった。

 あの時は。確かチヨを失って、やり直さずに先に進んだ時だっただろうか。

 なにもかもがどうでもいい。チヨがいない世界はどこまでもどうでもよかった。




 でも、そんな中。彼の言葉で、【やり直せる】という、その意味がやっとわかった。

 やり直せるのだから、そのやり直しのときにどう動けばいいのか。

 どうすれば、変わっていくのか。

 それを、俺は考えるべきだったんだ。







<冬>






 俺が全てを壊した。

 何度も壊し続けた。

 それは何度も俺が同じように動いてしまったから。

 こんなやり直しができるのに、同じことをし続けてしまったから。



<お前は、もし――>

<……? 何を?>



 ……そういえば。と。

 俺は目の前で俺を殺そうとしている友人と武器を鍔競り合いながら、その先に見える友人の怒りに燃える表情を見ながら考える。


 この男が動くと、何かおかしなことが起きていた気がする。

 常に、この男が絡むと、俺の知らない何かが起きていた気がする。



 ……そうだ。

 それに、確か。

 確かこのやり直しの長い旅の始まりでは、彼と俺は敵対していない。

 俺と一緒に世界樹の最奥へスズを連れていき、そこで……。




<この結末を、やり直せるとしたら>




 もしかしたら。

 この男に関われば――








<どう、したい? どこでこのやり直しを、変えられると思う……?>






 この世界の終わりを。このどうしようもない結末を。変えることが、出来るのではないだろうか。

 この男に関わらなかったから、俺のこのやり直しはここまでおかしくなったのではないだろうか。















    <二人……いいえ、複数なら>









 殺し合うために刃を交えながら、他愛もない会話を友人とするように話し出す彼。

 【今】と全く違う状況の中で、そうであればよかったと仮定を想像して答えてくれた彼の優しさ。


 彼と友人関係だったときと同じく。

 その彼が最後に見せた、友人としての彼の優しさが。



 俺が友人として。

 こうならないように、やり直せるならと夢物語を語ってくれた彼と、その仲間達を助けるために、俺がやらなければいけない、この目的のために。




<一人では無理だと思います。貴方がそうだとして、一人で頑張ってきてこの結果だったのなら、それは一人では無理だってことです。だけど。二人なら。複数人なら。何が起きるのか、別の視点からそれを知り、情報を刷り合わせてそれに対抗できるはずです。悲惨な結末があったとしても、それさえも救うことができるはず。なぜなら、そうなる結果、未来が分かるから、いくらでも対策がとれますから>





 死闘を繰り広げているなかでの冬の優しさに甘える。

 考えなかったわけではないその問題の答え。


 その答えを、誰かに俺はしてもらいたかったのかもしれない。


 俺は……。

 

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