第4話 終焉と開演


街での喧騒は収まりつつある。

各勢力は確実に抵抗を排除し物事を進めていた。


『こちら色町。おわりました』


『スラム、異常なし』


メッセージアプリでやり取りされる簡単なやり取り。

しかしそれで十分だ。この街は『追手』程度に落とされるところではない


「終わったぜフラゴラ。見送りに行くといい」

何本目かわからない弾倉を落としながら、アンディはフラゴラに言った。


「ウチを使って、ここでの権力拡大。そんで今回の件で中央連邦への釘差し」

フラゴラもまた、弾倉を変える


「なるほど。うまい手だな。」

銃口はそのままアンディを向いた


「その代価も払ってる。そういう商売だろ?俺なんかは特によ」

物怖じする風もなく、アンディもフラゴラに銃口を向ける。


殺気はなく、冷徹な空気が立ち込めた。


「そういやそうか」

「お互い悪者さ。真面目なんだよ」

同時にお互いの銃口が火を噴いて、


お互いの後ろに居た、息のある黒服にとどめを刺した。



「いい腕だ」

「お前もな」

にやりと笑って、二人は歩き出した。


「さ、こっちは仕事の残りを片付ける。あんたは駅へ」

そのままアンディは銃をしまって、どこかへとふらふら歩いて行った。


「『死なない猫』ねえ。まったく」

フラゴラもそのまま別方向へ歩いていく。

そこにあるのは、町の各所にあるフラゴラの隠しガレージだ。


稔夫変哲もないビルの壁を蹴り飛ばすと、ゆっくりその壁が開く。


そこには、妖艶な視線でフラゴラを見つめる美女、ランボルギーニ・ウラッコがいた。


赤いドレスとV8の腰使い。

乗り込むと同時に常に体に身に着けているキーを挿入てやる。

甘く気高い声が、彼女の体とフラゴラを揺らした。


「仕事終わりはデートの時間さ」

踏み込んだアクセルが、「二人」を加速させていく。


時刻はもう、夕方になろうとしていた。



ルフトゥーンの駅は結構でかい。

そこには、雅楽一派の兵隊たちがうろついている。

そしてあれだけの追手にもかかわらず、ハオレンは無事にその駅にいた。

VIP用にしつらえられた待合室。

手を付けていないコーヒーが冷たくなって何度か替えてもらっても、ハオレンはそこから出されてはいなかった。外の状況を知らされない彼には、不安だけが募る。


「・・・あ、会える、会えるさ、大丈夫だ・・・」


彼の手元には、くしゃくしゃになった家族の写真。

みんなでもう一度、この写真のように笑いあえる。それだけがハオレンの希望だ。


「待たせたな。」


そんな部屋の扉が急に開き、声が響く。

慌てたハオレンの前に現れたのは、フラゴラだ。


「少しばかり手間取っちまったが、オールクリアだ」

あれだけの戦闘をやった後なのに、身なりはきれいだ。おそらく「彼女」とどこかで一式服を買ってきたのだろう。


「あ、ありがとう・・・ありがとう・・・・」

泣きながら崩れおちるハオレンを引き連れて、フラゴラはホームへと向かった。



大型の電気機関車と、いくつかの客車。

駅の上では様々な職員があわただしく動いている。


「ゾータイ!遅いぞ!」

雅楽のところの兵士が叫ぶ。ゾータイはフラゴラのことだ。


「女以外は待たせるもんだ。違うか?」

「ぬかせ。いつでも行ける。『駅』に連絡して、沿線も抑えた」

雅楽一派は、この鉄道の周りすら制圧している。


「ありがてえ。」

「礼はいい。金だけ払いな」

「そうするよ・・・さて」

フラゴラはハオレンに向き直ると、ドル札の束を押し付けた


「逃げんのはアメリカだろう?ニューヨークのブルームストリートに行け」

「え、な・・・」

「うまいパフェを出すとこだ。俺のストロベリーサンデーには及ばねえがな」

そう言って、フラゴラはへたくそなウインクをした

「・・・・必ず、娘に食べさせるよ」

ハオレンは、フラゴラとしっかり握手を交わす。


「ま、二度と会わねえだろうよ・・・じゃあな」

感慨も感じさせず、フラゴラはそのままホームを立ち去る。


「ありがとう・・・ありがとう・・・・」

ハオレンはずっと、列車の中からもずっと、フラゴラの去っていったほうを眺めていた。


汽笛が鳴り、列車が出る。


一個、とりあえず大きな厄介ごとは片付いたのだ。


その汽笛を、フラゴラはウラッコにもたれかかって、タバコを燻らせながら聞いていた。









ルフトゥーンの街にある、暗いどこかの倉庫

仮面の男と、銃を構えた兵士が、そこにはいた。


「時間通りだね。君のような商人は信頼できるなあ。」


そこにどこからともなく表れたのは、黒い軍服の男【少佐】だ。


「初めまして、SGMの、」

「ビジネスの話だけで結構。知りたいことは知っていますから」


少佐は男の会話を遮って、後ろに立つ部下とともにそこに立つ。


「流石ラテン系ですな。話が早いしマイペースだ」

少佐の表情が少しだけ動いた。目つきだけは変わらない


「失礼。こちらもそこそこ調べさせて頂いております。時間がなくてそれくらいですが」

「成る程。気に入りませんな」

「お互いに、ですよ」


商人の男と少佐がにらみ合う。


沈黙が訪れるより先に、少佐が指を鳴らす。横に控えた部下がアタッシュケースを開いた。


「長期の相談になります。決行自体は二年ほど後・・・軍曹」


軍曹と呼ばれた男が、アタッシュケースから書類を取り出して商人に渡した。


「こちらがリストになります。これを揃えてほしい。二年で」


リストを読み込む商人。そこには、一介のマフィアとは思えぬ武器の羅列。


「ハイトゥン?こんな物をなぜ?」

ハイトゥンはSLCMである。射程も長く、弾頭も多彩。海のある東側の国ではよくみられるミサイルだ。


「コチラから出すのはAIP推進機関と特殊外装。それなりのルートから手に入れた物です」

少佐が顎をしゃくり、軍曹がアタッシュケースから別の書類を渡した。


「・・・これを、どうしろと」

「自由に使うといい。【自由】にね・・・南米のカルテルとか、ね」

少佐の表情は微笑んだまま動かない。

商人は、内心ぞっとした。


これではまるで・・・


「・・・・なるほど。して、ここまでした上でご依頼とは?」


「この街の地下にある、核弾頭を売り払いたい」

武器商人の顔がこわばった。


「・・・なんと」


「時期は二年後。そしてその弾頭のうち何発かを・・・先ほどのカルテルとか」

少佐の表情は崩れない。


「今回の件でCIAが動いた。ということは地下にあるのはホンモノ、ということです」

商人にも、話が見えてきた


「この二年で道筋はつくります。実行はそちらで。アンクルサムもそろそろ邪魔ですから」

商人の表情が凍り付いた


「そ、その依頼は・・・・」


「事が起これば、斜陽の武器産業にも陽の目が見れますなあ」


商人の目が泳ぐ。この男はつまり・・・

「あくまで引き金はカルテルですよ。我々ではない」

先ほどの余裕は、微塵もない。


「・・・・わかりました。別枠を、雇い、・・・・実行します」

「ありがとう。そう言って頂けると思いましたよ」

朗らかに笑う少佐に、もう商人は自信のほどを失っていた。


「し、しかし・・・・解せませんな」

商人が虚勢を張る。


「まるで・・・・貴方の望みは破滅かのようだ」

平静な振りをする商人。しかし少佐は、たいして表情を変えない


「そうだよ?何をいまさら。【第三帝国】は【悪】なのだから」

いつの間にか咥えた煙草に、軍曹が火をつける。


「・・・二年後ですな。できるだけ、稼がせてもらいますよ」

「気を付けておくれよ、アブサロム君」

その言葉に、商人は戦慄した


「・・・・どこまで御存じで?」

「君の生まれくらいしか知らないさ。時間がなくてね」

薄く吐かれたた煙草の煙が、空間に漂う。


重たい沈黙。殺気とも嫌悪ともつかぬ空気が、場を支配した。


「本当に、世界すら」

「それはすぐにわかります。二年後にね。」

凶器にも似た微笑みと昏い目つき

この男は、死神すら生ぬるい

商人は部下をつれ、そそくさとその場を後にした。

まるで悪魔から逃げるように。













アメリカ、中央部

ルフトゥーンの騒動からはもうかなり時間が過ぎた。

ハオレンもまた、一般の生活に戻っている。もちろんCIAなんかの監視はつくし、少しだけ窮屈な思いはしたが、一種のボディーガードだと思えばいい。

娘は約束のストロベリーサンデーを喜んでいたし、あのころのような家族に戻れた。


はずだった。


今、彼の前には、無数の死体と、二人の人間がいる。

一人は黒髪の女。その手にしているのは一振りの刀。血が滴るそれは、怪しくきらめく

「意外と手ごたえがない。こんなものか」

女は冷たく吐き捨てた。


「やっぱりさあまあさあ、そんなもんだろうよ。ただの下っ端だろうしさ」

そしてもう一人。両手に銃を構えた、男。


「よオ元気か、なア聞いてルかおっさん?元気か?ん?」

どこか楽しげに、男はハオレンに聞いた。


ほんの十分前。護衛に囲まれた彼は帰路についていた。

が、目の前の二人が、あっという間に、護衛たちを血祭りにあげた


「中央政府の依頼だ。やあ死んでくレってさおっさんなにしたんだ?」

悲鳴すら上げる間もなく、銃と刃が周りの護衛たちを引き裂いた


「た、たすけ・・・たす」

掠れて声が出ない。家族が、なんでこんな・・・


そこまで考えたところで、銃声がしてハオレンの意識は途絶えた


「さああああああて、さてさて」

死体の真ん中で、男だけがしゃべり続ける。


「もっかい、もっかいだ。パーティだよパーティ。下ごしらえが始まるよ」

「・・・ああ・・・楽しみだ」

これだけやっても増援などは来ない。どうやら電子システムなどはすべてダウンしているようだ。


「そウ!もっかい!・・・・いや」

「ん?」

女が不思議そうに男を見た

「今度は、もっと大きい・・・・」

男が呟くと、二人は、ゆっくり口角を上げた

「「我らジャードリツィア。革命は暴力により」」





       To be continued 映画サバ4・・・・・

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映画サバ0 wake up the gun @oshiuti

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