夏祭りのあと

「祭りの土産話として、最後にひとつ聞いていい?」

祭り会場の終点の場所で、陽夏は博士に言いました。


博士の背中には疲れて果てたアイが気持ちよさそうに眠っています。

「――ちょうどいいですね。僕も聞きたいことがあったんですよ」


「じゃ、お先にどーぞ。……あ、でもその前にひとつだけ。さっきはありがとう。博士くんのお陰でなんとか提灯は灯るわ、入口からカラフルにそれもいろんな光り方で一番奥のここまで光が流れるわ……。そんなスペシャルサービスまで付けてもらって、お客さんたちは真っ暗になったのもむしろ演出くらいに思ってくれたらしい。素晴らしかったよ。キミはほんとのほんとに、世界一の発明家かもしれないな」

「いえ、僕は大したことしていないですよ。……それに恰好悪いところもたくさん見せちゃいましたしね」

「ふふっ。あれは確かになかなか無様だったな……。で? 博士くんの質問を聞こうじゃないか」

「無様で悪かったですね……。じゃ遠慮なく。……陽夏さんは、もし地球にひとりぼっちになったとしたら、どうします?」


博士は背中の重みを背負いながら、鋭い視線を陽夏に向けました。

陽夏は息を大きく吐き出すと、

「……そうだな。寂しくて嘆いて、挙句の果てには自殺なんかしちゃうかもしれない。今度は《僕の将来に対する唯ぼんやりした不安》改め、《私の将来に対する確定された孤独感》と言ったところかな? ……いやこれは上手く言えていないな」

陽夏は右手でピストルを作ると自分のこめかみにあてる仕草をしました。


「……それじゃあ陽夏さんは、」

「――と、昨日までの私なら答えていただろう」

「……じゃあ今日なら、今ならなんて答えてくれるんですか?」


一瞬の沈黙がありました。

そして陽夏は静かに笑います。


「そうだな。……こう答えるよ。『きっとなんとかしようとがむしゃらに駆けずり回って、醜く不格好でも無様でもいいから最期まで希望を捨てずに笑って生きてやる』ってね。……博士くん、キミのようにだ」

陽夏は博士にその手で作ったピストルを向けました。


「……いつから気づいていたんです?」

「最初から変だなとは思っていだけど……、アイちゃんが《私たちのいた世界》って言ってたことかな」

「あいつ……」

「ああ、でも確信に変わったのはいま、この博士くんの質問で、だよ。……そうか、キミのいる世界ではひとりぼっちなのか」

「いまはアイがいてくれるから随分と寂しくなくなりましたけどね」

「そうか、それはいい。アイちゃんが何者かは聞かないよ。彼女がなんであれ、私にとっては大切な仲間だからね。……それで《夏》は見つけられた?」


《夏》。それは博士とアイが二人で探していたものです。


「――はい、たぶん、わかったと思います。目標は達成出来ました。これで大きな顔して帰れます。……まあ向こうには誰もいないんですけど。陽夏さんは……、これからどうするんです?」

「そりゃあよかった……。私はね、ここに残るよ。この田舎町で、町おこしなんかやってみようかなって思っている。やっぱり好きなんだよなぁ、ここが。……名物なんかなにもないしさ、若い子は随分少ないし……、たぶん上手くいかないけど、やるだけやってみるよ。あ、そうだ。未来人が来た町っていうのはどうかな? もちろん証言者は私」


博士は破顔します。

「なんですかそれ。陽夏さんの頭が疑われるだけですよ……。まぁそれも悪くはないですけどね」

「ああ、そうだな。まったく悪くない」

陽夏は澄み切った表情で博士を見ると、優しく笑いました。


「……じゃあ僕たちはそろそろ行きます」

「ああ、ちょっと待ってよ」

「……なんですか?」

「言ったでしょ? クライマックスは二度あるんだよ。……丘に行くといい。地元民はあそこに入るの禁止されているからね、二人きりで見られる・・・・はずだ。帰るのはそれからにしなよ」

「丘ですか……。どっちにしろそこに行こうと思ってたんです。……見られる? どういうことですか?」

「それは行ってからのお楽しみ。……いろいろとありがとね。もう会うことはないだろうけど……。んじゃ、さいなら。アイちゃんにもよろしく言っておいてくれ。――キミたちのおかげでまたとない、いい夏だったよ。ほんとにね」


そうやって陽夏は手を振りながら反対方向に歩いて行きました。

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