縁側のお昼寝
博士とアイの二人は深い
陽夏は「ちょっと待ってて」とスイカを切りに行ってしまいました。立派な木造の家から察するにほかに家族の存在も伺えますが、今はどうやら出払っているようでした。
博士が小さな声でアイに話しかけます。
「……どうだ、アイ。《夏》がわかりそうか?」
「はい、お兄ちゃん!」
「おいおい、僕の前では演技するなよ……」博士はなぜか《お兄ちゃん》と言われると少し照れるのでした。
「ふに、ごめんなさい。間違えました」
「まぁいいけどさ。それで《夏》は?」
アイが無邪気に笑います。
「わかりましたよ、博士。私、思いました。あの屋台の道を歩いていて……、もしかしてあの雰囲気が夏なんじゃないかなあって」
「あの雰囲気? どんな感じ?」
「それは……。えーと。あの活気というか、人の感じ? ……ふにー。まだ上手く言葉に出来ません。ごめんなさい、お兄ちゃ……違う、博士」
「……? 珍しく今日は間違いが多いな?」
アイがこめかみを抑えて「ふにー」と唸ります。
「なんだか本物のお兄ちゃんのような錯覚をして……」
「なんだそれ、勘弁してくれよ。こっちの時代に来た直後も言い間違いをしていたし、本当に大丈夫なのか、アイ――」
ようやく陽夏がお花をあしらった丸いお盆を両手に持ってやってきました。
「はい、お待たせ」
お盆の上には綺麗な三角に切り揃えられた真っ赤なスイカが乗っていました。
「うわぁ、美味しそうです!」
「そう、じゃなくて美味しいよ、これは。近所の畑で作ったやつだ」
「ふに? スイカって畑でできふぇんでふか?」
「ほらほら、さっきも言っただろ。食べながら話さない」博士がアイの額を小突きます。
「うん、いっぱいあるからゆっくり食べな」
三人は夏の太陽の攻撃を庇に守られながら、楽しく話しました。
*
アイはいつの間にか眠ってしまいました。縁側が気持ちよかったのでしょう。陽夏の膝の上でぐっすりです。
「アイちゃんのこの顔……」陽夏がアイの柔らかい頬にそっと触れます。「まるで天使だなぁ……」
「すみません、ご馳走になった上にすっかり邪魔してしまって」
「んーん、いいのいいの。私も久しぶりに実家に帰ってきて、みんなとたくさん話したから疲れちゃってさ。ちょうどよかったよ。この縁側だとゆっくりできる」
陽夏が目尻を下げて辺りを見渡しました。
「……そうですね、ちょっと体験したことのない空間です。とても気持ちいい」
「そうだ、お祭りまでまだちょっとあるし、博士くんも寝たら?」
「え?」
「長旅で疲れたでしょ?」
博士は一瞬考えましたが、陽夏の優しい笑顔に負けました。
「……そうですね、そうします。夏祭り、楽しみにしているんですからちゃんと起こしてくださいね?」
「わかったわかった、ほら、おやすみ」
博士は縁側に寝そべると、疲れていたのでしょうか、すぐにまどろみの世界に入りました。
(目が覚めたら夏祭りか……。アイのやつが《夏》を理解してくれるといいんだけど。ああ、眠たい。……あれ? 僕とアイは何を探しに来たんだっけ? ……そうだ《夏》だ。なんか変な感じだ。頭の中に違和感がある。僕は記憶力には自信があるのに……)
そのとき、どこからか風鈴の涼やかな音がちりん、と鳴りました。
その音はどこまでも心地よく、博士を静かにゆっくりと、深い眠りへ
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