夏を探して
それから二人の発明と
まずは《自律型温度調節スーツ》の温度調節機能による実験です。
「……博士。あ、暑いです。苦しいです。……これが《夏》なのですか?」
「……いや、暑いだけが《夏》ではないな」
実験は失敗となりました。
次は《超自動調理機》による実験です。
「……博士。この冷やし中華とスイカというものはとっても美味しいですね!」
「……いや、《夏》の食べ物というだけだな」
実験は失敗となりました。
さらに新しく開発した《夏の終わりを感じさせる音波》による実験です。
「……博士ぇ。《夏》の終わりってなんだか切ないですねぇ……!」
「……いや、無理やり感情を操作するのはなにか違うな」
実験は失敗となりました。
博士の思った通り、《夏》をつくることは非常に困難を極めました。
天才の博士といえどもそう簡単に《夏》を再現することはとても難しかったようです。
「アイ。どうしたら《夏》が作れると思う?」
博士は癖である白衣のポケットに手を突っ込むポーズをとりながら、何度目からのその質問をしました。
アイはお決まりの定位置――、学習机の椅子の上で三角座りをして、膝の前で両手を組んでいました。自身を前後にゆらゆらと揺らしながら答えます。
「うーん……。私は博士ほど頭が良くありませんし……。あ、でも大昔にはあったんですよね、《夏》って。そのときのデータとか残っていないのですか?」
「そうか。大昔のデータか……。それは一理あるな。……いや、でもそれは探すにもどこにあるかわからない。……ん? 待てよ。大昔? そうか。そうだな……」
博士は室内を歩き回り始めました。なにか思いついた証拠です。
「……? 博士?」アイは片方の眉だけ器用に吊り上げました。
「そうだ、大昔だ。
「……えーと、ちょっと待ってください。何を言っているのです? 昔に戻るってどういうことですか」
アイは博士の言うことが理解出来ず、いや、より正確に言うならば理解を超えていたので、こめかみに人差し指をあてて考え込んでしまいました。
「その通りの意味だよ。時を戻すんだ」
それが非現実的だということは当然アイにもわかりました。
「そんな無茶な――、」
「いや僕はやるといったらやる男だ。アイを作ったときもそうだったんだから」博士は自信たっぷりに自分の胸に親指を指し示しました。
アイはなにか言い返そうとしましたが、自分を作ったときの話をされると反論は難しく、ひとつため息を吐くと、博士を見守ることにしました。
それにさすがの博士でもこれは出来ないと思ったのもありましたし、こうなった博士になにを言っても意味がないことだと知っていたからです。
「……ふに…………、じゃあ頼みますよ、世界一の発明家さん」
「ああ、アイこそサポートを頼むよ」
博士はゴーグルをつけるとさっそく研究にとりかかりました。
アイの予想とは裏腹に、博士の《タイムマシン》研究は順調に進んでいきました。
火がついた博士は、それはもう無敵状態でした。
ログハウスの近くではだいぶ遅く咲いたタンポポが辺り一面に花開いたかと思えば、《夏》を飛ばして秋になり、今度は大雪が積もって、そしてまたタンポポの時期となり、つまり研究を始めてから丸一年が経ったころ――
アイを作ったときと同じ期間の長さで、なんと《タイムマシン》は完成してしまったのです。
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