3月3日 冷えた闇
夜、目が覚めて。
部屋に浮かぶ闇が、冬の夜空のように冷たく澄んでいて、本当に綺麗だった。
私にとって「綺麗な闇」は、たいてい月も星のもない、澄んだ日の夜空のことだった。電気を消しただけの私の部屋は、どうあがいても、何て事はない、ただの止まった暗闇だった。
しかしその日は、本当に自分の部屋に夜空がやってきていた。手を伸ばすと水を触ったときのように指の隙間から流れていってしまう。ただただ綺麗な「黒」で満たされていた。
これは電気をつけたらいけないと思い、でも蝋燭ならいいかなと蝋燭に火を灯したが、戻ってきたらその「黒」は消えてしまっていた。いつも、枕元の電気灯では部屋全体を照らせないのに、安い蝋燭に灯った火は部屋の「黒」を全部浚っていってしてしまった。
少し寂しくなって同じく取り残された蝋燭を見やった。安物の蝋燭は、無難に綺麗な炎で灯っていた。すぐ消すのも悪いな、としばらく横に置いてまたあの闇が来ないだろうかと待った。蝋燭はまだまだ燃える。ずっと見ていても火は綺麗なままだったけど、最初にみたあの美しく冷えた闇を思い出して手で仰ぎ消した。
部屋はいつもの、電気を消しただけの陳腐な暗い部屋だった。
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