第3話 西宮美沙希の場合
2019年4月10日
放課後。今日もいつも通り図書室に駆け込んだ。だからといって本は読まない。映画を観る為にこの場所に来た。人は私と男の子1人しかいない。映画を観るにはうってつけだ。今日観るのは「キャリー」クロエグレースモレッツが好きだから敢えてリメイク版から観る事にする。
2019年4月11日
昨日観た「キャリー」は普通だった。今日は「ダンサーインザダーク」を観る。私の前の席には昨日と同じ男の子が座っている。彼は何を目的に生きているのだろうか? 何故放課後のこんな時間に図書室にいるのだろうか? 私と同じなのかな。
2019年4月12日
ラースフォントリアー最高! という事で、今日は「ドッグヴィル」を観る。相変わらず今日も前の席に同じ男の子が座っている。何を読んでいるのか気になったので覗いてみた。黒い表紙に黄色い文字でタイトルが書いてあった。何の本なのかな。明日もあの男の子が前に座っていたら、聞いてみる事にしよう。
2019年4月13日
「アンチクライスト」を観ようと思ったが、昨日書いたことを有言実行しようと思い、今日も来ていた前の席の男の子に話しかけた。名前は千葉繁というらしい。昨日読んでた本は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」というタイトルらしい。私が「ブレードランナーの原作じゃん!」と言うと、キョトンとしていた。やっぱり私はちょっとズレてるのかなぁ。だけど、楽しい時間だった。この感じがまた味わえるならどんなに良いことか。
2019年4月14日
本当なら図書室で千葉とお喋りしたかったのだけど、滅多に鳴らない私の電話にかかって来た電話がそれを許さなかった。呼び出しに応じて来てみると、お母さんとお父さんが居た。離婚すると私に言ってきた。私はどうやってその場から逃げたか。もう覚えていない。ただ、大人というものの自己欺瞞に強い不快感を覚えた。それだけだった。堪らなくなって私は唯一の友人に連絡した。その子に私はこう言った。「ネガティブでポジティブな歌を教えて」 彼女はすぐに歌を送ってくれた。いざ聴いてみると、素晴らしかった。特にこのフレーズが気に入った。「空っぽの空が僕はきらいだ」そうだよ。私もきらいだよ。
2019年4月15日
嫌だ。死にたくない。誰か助けて。
こんな路地裏で死にたくないよ。
ねぇ 誰か。
あっ
あのメガネ 千葉くんじゃないか?
目が合った。
あれ? 逃げて行っちゃった。
なんだ。助けてくれないのか。
なら死んじゃうのか。
死んじゃうのか。
2019年5月15日
おかしい。私は確かに通り魔に刺されて死んだはずなのに、意識と体の感覚を持って立っている。いや、死んでいるのがチャラになったなら良いのだが、周りの人間に呼びかけても反応がないという事は、つまりそういうことなのだろうな。自分の状態を地面の水たまりで確認してみた。刺し傷はないが、顔色は悪く、髪型も変わっている。取り敢えず、学校に行ってみる事にしよう。この状態なら、タダで乗り換えができる。夢が広がった。
さて、学校に着いたは良いが、どこに行くべきだろうか。やっぱり図書室かなぁ…
その時、私の前から二人組のカップルが来た。
「ねぇねぇ千葉くん。この曲知ってる?」
彼女はヘッドホンを彼氏に渡した
「ん? いや、知らないな」
「千葉くんってちゃんと新しい音楽開拓してるの?」
「あ? お前が教えてくれるから必要ねぇだろ?」
「へ? そ、そっかそっか。そうだよね。アハハ…」
千葉くん。私の目を見て立ち去った千葉くん。しかも、横に居るのは…
いや、妬むのはよそう。明日図書室に出直す事にしよう。そしたら、ずっと千葉に付きまとってやる。これくらいのささやかな復讐なら、良いよね?
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