おりょうり

「ウェルたん」

 紅葉色した後頭部に呼びかけると、彼は振り返って、今日も黒雲をまとった車輪の上の百鬼夜行を見上げた。なまえ、ウェルダン、と訂正してくる巨体を、朱の鞘をつけた刃の腕の先で、つんつんとつつく。

「ウェルたん、料理するの」

「りょうり する しあさって ほっとけーき やく ユーゴと」

 うん、と頷いた拍子に真っ赤な髪がさらさらこぼれる。

「ひゃっきー りょうり いっしょ する?」

「僕はしない。腕がこうだから」

「うで ぼう」

「棒じゃないのだ。鞘なのだ」

 百鬼夜行は基本的に、車輪に下半身をのせて、両腕で上半身を支えるという立ち方をする。だがこの両腕というのが、とても大きな刀のような形状をしているがために床を傷つけるというので、カバーをつけろというお達しがきた。

「りょうり ユーゴとする かんたん だから ひゃっきーも いっしょ できる」

「ええ。この手で。何を」

「ほっとけーき」

「ううん。……本当?」

 百鬼夜行が首をかしげると、雲が揺れて、隙間から灰色の桜がこぼれた。今日は翡翠を嵌め込んだ瞳を瞬かせ、おんなじ色をしたウェルダンの目をじっと見る。

「だいじょうぶ いっしょ」

 うん、と頷く緑の瞳はきらきら輝いて、それが映った百鬼夜行の瞳もきらきらした。そんなら、と、ごろごろと車輪を動かして、ウェルダンのあとについていった。

「いいのかい。僕信じるよ、君のこと。ねえ」

 後日、ARMA居住棟のキッチンで、刃の代わりに泡立て器を腕に装着した百鬼夜行と、ホットケーキの塔を支えるウェルダンがわいわいやっているのが目撃された、とか。



(ハキチャン=ジョンソンさんより、ウェルダンくんをお借りしました)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る