第4話 海賊の漫画()

 さて、タイトルを読んで、ここを開いた貴方。

 きっとあなたは、海賊の漫画と書いてあるのを見て、月曜おなじみの少年誌、大長編の海賊マンガを思い浮かべたと思う。


 残念ながら違う。筆者は、アレが嫌いだ。

 一応、惰性で、立ち読みで、ざっくばらんに流し読みで読んでいるが、やっぱり嫌いだ。と、いうことを毎週の様に再確認している。

 ともかく、読んでるお前はツンデレ――と、言われるかもしれないが、それでも言わせてもらう。

 私は、あの海賊マンガが大嫌いだ。

 どんなに危機に陥っても、誰かに甘える。都合のいい助けがくる。そういう展開が目に見えて、いけ好かない。

 それでも読んでいるのは、そういう展開が裏切られるときが来るのを、ちょっとだけ期待してる。

 しかし、コレほど待ってみても、まるで無いから、やはり、その時は来ないだろう。そう思う。

 しかし、来ないというならば、こんなのもの、毒でも、薬でもない。

 ともかく、そんなものに感想をつけるつもりはない。私以外の誰かがやればいい。


 ここで感想を書き、紹介したいのは、別の海賊の漫画だ。

 先に上げた海賊マンガのように、都合の良い助けなど無く。無慈悲に人が死に、現実の恐ろしさをアリアリと描写する漫画。

 今月の頭から、NHK深夜枠でアニメが放映され始めた海賊漫画だ。


 前もって注意しておきたいが、この漫画。毒書だと思った方が良い。


 時代は、11世紀初頭、描かれる地域は北欧からイングランド、アイスランドなど、西欧北西部。

 主人公は、10代半ほど・・・。アシェラッドという頭目の海賊団で、遊撃や突撃など、率先して危険な役割を行って、戦果を上げるたびに、褒美として頭目のアシェラッドに決闘を挑んでいる。

 その理由は、5・6歳を数える幼い頃、父親を目の前で殺され、その仇を討つため。


 この漫画に置いて、私が面白いと思うのは、哲学的な話。

 この漫画の作者、前作の宇宙デブリの掃除業者を描いた漫画にて

「・・・気安く愛を口にするんじゃねェ」

 と、人物に語らせているのだが、その愛の本質を書いたところがなんとも面白い。


 この場面は、主人公のトルフィンとは、立場が真逆でありながら目指すものは同じ道を歩む王・・・王子の頃に宣教師と行われた問答の1幕・・・。


「………………愛の本質が… 死だというのか」

「はい」

「……ならば親が子を… 夫婦が互いを ラグナルが私を大切に思う気持ちは 一体なんだ?」

「差別です 王にへつらい奴隷に鞭打つこととたいしてかわりません

ラグナル殿にとって王子殿下は 他の誰よりも大切な人だったのです おそらく彼自身の命よりも…

彼はあなたひとりの安全のために 62人の村人を見殺しにした 差別です」


 ――そう、愛と、巷で云われるそれは、差別といい切っている。


 コレは、私にとって、読んだ当時、目からウロコであり、同時に、確かにそういうものだ。愛を語るなど、胡散臭い。と思うようになった。

 それを自覚せずに、愛を気安く語るのを見るのは・・・。

 あるいは、我が子を苦痛から守ると、意気込む親を見るのは、なんとも、見ていていたたまれないと思う様になった。


 しかし、それこそが人の本質。差別こそが人の本質。

 例えば、『汝、病めるときも、健やかなるときも・・・』というのは、対象をそれに限定するという宣言なのだから・・・。

 だから、自覚せずに"愛"だのと、偉そうに語るのは、虫酸が走る……が、同時に、それを自覚しながら、語るのは、潔く、敬意を払う。


 一例を上げれば、死こそが愛。全てにおいて平等であるのが愛だと言うならば、それを体現してるのは、【テラフォーマーズ】という漫画に描かれる火星のゴキブリだろう。なんせ、路傍の花も伴侶も、子供も、自分の命さえもすべてが同価値という価値観だ。

 しかし、この漫画で語られる……ゴキブリの在り方のそれとは真逆のこの台詞・・・。


「綺麗事を言うつもりは無い。悪怯れるつもりもない。俺は自分の娘と孫を守るためだけに他の世界の住人全てを売る!」


 ここまで割り切れるならば、やはり、尊敬と敬意を持つ。

 そして、エゴこそが人の本質。であり、尊さとも言える。同時に醜さとも。表裏は一体。


 さて、話を戻して、この海賊の漫画、【ヴィンランド・サガ】

 他にも身にしみる言葉が沢山ある。


「お前に敵などいない。誰にも敵などいないんだ。

傷つけてよい者などどこにもいない。本当の戦士には剣など要らぬ。」


「カネの奴隷がムチ持ってカネで買った奴隷に主人ヅラしてやがんの

自覚がないだけなのさ。

 人間はみんな何かの奴隷だ。」


 さて、『本当の戦士には剣などいらぬ。』・・・・という言葉は、いささか分かりにくかろうが、『人間はみんな何かの奴隷』――この言葉には、なにかピンと来るものは無かろうか?

 子供には読むに、きつかろう。だが、読めば、何かを見せてくれるはず。人の悩み、苦悩、生き方を考えさせてくれるはず。


 コレは、大人向きの――人生の見方を変えてくれる作品。そんな海賊が跋扈する時代を描いた漫画。

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