第二十六話 懐かしい顔ぶれ

「迎えに来る、ありがとう。会える、嬉しい、私はロレン」


私はアー、ヒロトのユンのナナミ。家族カザラン助けるメーヤー世話するラクシュしてくれて、とても感謝していますタカーサ・タカーサ・タカーサ!!  どうぞ、よろしくカーニャ・ラザーナ!」


 ロレンとナナミが、お互いに相手の言葉でカタコトの挨拶を交わす。その様子に全員が吹き出す。


「ロレン、言葉チト・テト、大丈夫。ナナミは聞くは俺より上手」


 ハルとハナが、それぞれのメンバーと抱き合って再会を喜び合う。


「ハル、翼似合ってるじゃねぇか!! もう飛べるのか?」

「まだ! でも練習、たくさんする!!」


 バザンが歓声を上げ、ハルを抱き上げて肩に乗せながら言う。


「ハナ〜ハナ〜!! 会いたかったよう〜!! 少し背が伸びたね!! 元気そうで良かった! ああ、お尻尾!!」

「ふわ〜!! クーミ(クルミ)ねーたんだ!!」


 クルミがポロポロと涙をこぼして、ハナに頬擦りしながら言う。


 ちなみに俺は、あの後……クルミにスリング・ショットで射かけられ、慌てて人型に戻ってから再会の挨拶やらは済ませてある。


 そして近況報告もそこそこに、左腕の事で全員から説教をくらった。しかも半裸で。


 特に爺さんからは本気で叱られた。


「バカ垂れが!! なんで手紙にを書かなかった? 知っていれば道具を持って来たし、リュートに手伝わせる事だって出来たのに!」


 爺さんは即座に、俺の義手の事を考えてくれていた。珍しく声を荒らげる様子すらありがたくて、叱られながらニヤけてしまったら、ゲンコツを喰らった。


 その日の早めの夕食は、盛大な歓迎会となった。


 ここにいないメンバーや、それぞれの近況、お互いの旅の様子……。手紙に書ききれなかった事は山ほどある。言葉が足りない部分を補い合って、尽きない話に花を咲かせた。


 初顔合わせ同士も、意外に話が弾んでいるな!


 ルルとバザンは武器や武術の話で盛り上がっているし、カミューと爺さんは細工物や工具の話をしている。


 ロレンはナナミと、赤ちゃんの頃のハルやハナの画像を見ている。子育てについてアレコレ、熱心に質問しているけれど、なんか予定でもあるのか?


 入れ替わり立ち替わり台所に立ち、各自の得意料理をどんどん作ったが、出す側からなくなった。



 みんなが少し喋り疲れた頃、クルミが立ち上がった。久しぶりに踊って見せてくれるらしい。


 アンガーがどこから取り出したのか、草笛を吹き始める。うれいを帯びた艶のある低音が、哀しい物語を予感させる。


 それは茜岩谷サラサスーンに伝わる、古い物語だった。




 昔、茜岩谷は生き物を寄せ付けない、文字通り不毛の大地だった。ある時、ドルンゾ山を越えて水の娘が遊びに来た。


 水の娘はひび割れて乾いた大地で、今にも立ち枯れそうな木の青年と出逢い、恋をする。


『娘さん、僕に構わずに山にお帰りなさい。早くしないと君まで乾いてしまう』


 ほんのすこし残った枝葉で、水の娘に木陰を作りながら木の青年が言う。


『いいえ。私はあなたの渇きを、少しでも癒したい。

私は日差しを避けて、地面の下を流れましょう。あなたの根に触れる事が叶うなら、きっと涸れずにいられるから』


 茜岩谷では時折り現れる水場に、大急ぎで木が育つ。それは水の娘と木の青年の、束の間の逢瀬なのだとか。



 クルミが演じるのは、恋しい木の青年を探して、地面の下を流れる水の娘。ゆるやかに流れるような振り付けは、清らかさの中にもに情熱が見て取れる。


 クルミの踊りを見るといつも思うのだが、あの能天気な娘のどこに、こんな細やかな表現力が潜んでいるのだろう。首の角度、指の表情、瞳の色まで違って見える。


 隣でナナミが、ふうと大きなため息をつく。


「バレエなんてテレビでしか見たことないけど……なんかすごいね! 言葉が出ないよ」


 ふと見ると、クルミはトウシューズを履いていなかった。僅かな幼さの残る柔らかそうな足指が、あまりにも弱々しく見える。


 クルミの細い足首の、鈴の付いた足輪がシャンと鳴る。


 暗い地面の下から解放され、焼けつく日差しに負けない力強さで、渇いた地を潤してゆく。


 俺とハルが鳥の人となった今、唯一の耳なしであるクルミの足は、しっかりとパスティア・ラカーナの大地を踏みしめて、軽やかに伸びやかに宙を舞った。


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