第十六話 バカンスはおしまい!
「俺たちは地球に戻れるのか?」
「……戻りたいのですか?」
……お前、いったい何者……なんだ?
「当機は飛行型探査機『P-350R TYPE-A』です」
▽△▽
その後ドローンは、のらりくらりと俺の質問をかわし続けた。
『ナナミとハナが元の姿に戻れる可能性は高くない』
『俺とハル、クルミも時が来れば獣の人となる』
こんな重要な情報が『権限の第一段階』で解除されたっていうのか?
しかも……
俺の『地球に戻れるのか?』という質問に切り返しやがった。そんな駆け引きが、人工知能に必要なのだろうか。
『戻りたいのですか?』
ドローンのカウンターパンチのような質問には、俺は答える事が出来なかった。
ドローンからの情報を、全て鵜呑みにするのは危険だろう。だが、ナナミとハナが、本当に元の姿に戻れないのだとしたら……
地球に戻って、普通の生活が送れるのだろうか?
耳と尻尾を隠して、人目を避けて暮らす。俺とハルが、この地でそうしてきたように。
クルミの話だと、俺たちは失踪事件の当事者として、世間を騒がせていたらしい。俺たちが戻ったら、きっとマスコミが注目するだろう。おそらく、隠し通すには苦痛を伴う。
『俺とハルとクルミに、どの程度の時間が残されている?』
その質問へのドローンの回答は『具体的にお答えする事は困難です』というものだった。
「ありがとう。日が暮れるまで待機してくれ」
俺たちが『地球に戻りたい』と言ったら、その方法があるのだろうか。それはつまり、このドローンは俺たちが『なぜこの地に飛ばされて来たのか』を、知っているという事なのか。
俺はナナミに会えて……家族が揃った事で気が抜けていた。問題が全て解決したような気になっていたのだ。
クルミを、今のままの姿で、家族の元に帰らせてあげなければいけない。
『いずれ時が来れば』
ドローンの無機質とも思える、流暢な日本語を思い出し腕に鳥肌が立つ。タイムリミットが設定され、カウントダウンがはじまってしまった気分だ。
クルミは適応能力が高く、明るく、そして強い子だ。さゆりさんの手紙にあった通り、きっと大岩の家で楽しく踊りながら暮らしている。
だが、クルミは獣の人になる事を望んでいない。少なくとも、俺たちが東に向けて旅立った時は、望んでいなかった。
獣の人となると、耳と尻尾が生えてくるだけではない。ナナミがいうには、関節の位置や重心、筋肉のバランスが変わるらしい。
幼い頃からバレエ一筋で、ひとつのポーズを極めるように自分の身体と向き合ってきたクルミにとって、関節や重心が変わってしまう事は、どれほどの事だろう。
それでなくとも俺たちと違って家族と離れ、ひとりでパスティア・ラカーナへと飛ばされて来た、まだたった十二歳の少女だ。
ミンミンで、腑抜けてる場合じゃないな。
大きく息を吐きながら、洞窟の入り口から見える夕日を眺める。アチ(海鳥)の魚を追う声が小さく聞こえる。
よし! バカンスはおしまいだ。
モニターの前で、カメラのレンズ越しに俺を見ている奴。このドローンの本当のマスター……待ってろよ!
早急に尻尾を掴んでやる。あんたの知ってる事、洗いざらい聞かせてもらいに、必ず
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