第十五話 ドローン 其ノ三
「おきゃーり(お帰り)とーたん!! ……それなぁに?」
ハナが俺の左斜め後ろ、頭上五十センチ程のところでホバリング中の物体を指差して言った。
「うん? ああ、ドローンの……『P-305』だっけ?」
「『P-350R TYPE-A』です。マスター、こちらがご家族ですか?」
やっぱり、中まで着いてくるのかよ……飯食ってくか? いや、何でもない。冗談だ。
「ふわぁ〜! しゅごいね、おはなしできるんだね! ぴーさん?
「お父さん、お客さんってコレのこと? ぴーさんっていうの? これが耳なしの空飛ぶ船なの? 小ちゃくない?」
ナナミ、二人に何て説明したんだよ……『お父さんが、面白いお客さまを連れて帰って来るわよ!』ってな具合か?
お客さんと言うよりは、ストーカーだろう!
ドローンは俺をマスターと呼び『指示をどうぞ』なんて言ってたくせに、大して言うことを聞いてくれなかった。
洞窟に待機しているように言ったのに『当機の目的は情報収集です』と言って俺から離れようとしない。
情報って……俺の情報集めんのか?
明るいうちからこんな目立つ物連れて歩いたら、注目を集めるどころの話じゃないぞ。耳なし伝説の、新たなページを開いてしまう。
仕方なく、ナナミには先に戻ってもらって、洞窟で日が暮れるのを待ちながら、延々と質問を繰り返した。
『その質問へのこたえは、機密事項に抵触します。セキュリティの解除が必要です』
一言一句、違いのない返事を、何度も何度も繰り返し聞かされて、俺はほとほとうんざりしてしまった。
第一段階は、解除されたんじゃなかったのか?
八つ当たり気味に『もっと短い返事にしてくれ』と言ってやったら、意外なことに『善処します』と言ったあと、少し黙った。
『その質問には答えられません』
黙ったと思ったら、呟くように言った。ああ! 短いな! 半分くらいになった。
高性能と言ってしまえばそれまでだが『間』の取り方に、人間くささを感じる。
どこかで誰かが、モニターを見ながら喋ってるんじゃねぇの?
そんな考えが頭を掠めて、ちょっと質問に変化球を混ぜてみた。
「地球とは違う星なのか?」
「その質問には答えられません」
「夕陽が綺麗だな?」
「人間が好む風景である事は、理解しています」
「ナナミがマスターになれない理由は?」
「身体的特徴が条件を満たしていません」
「耳なしじゃないから?」
「その質問には答えられません」
「ハルならマスターになれるか?」
「情報が不足しています」
「腹、減らないか?」
「当機は収納ポッド内で、エネルギーの充填が可能です」
質問しながら、少しずつ近づいてみる。
「初期稼働からの経過時間は?」
「その質問には答えられません」
「地球は今どうなっている?」
「質問が具体性に欠けています」
「そのポッドの中、見せてくれないか?」
「それは可能ではありません」
俺が近づくと、スーッと距離を保とうとする。ポッドに近づこうとすると、さりげなく間に入る。
「取り扱い説明書とか、ないのか?」
「必要な機能の具体的に例を挙げて、質問をどうぞ」
「……血液検査とか、DNA鑑定とか……」
「採取物の鑑定はある程度可能です」
出来んのかよ! 高性能だな!
「俺に権限はあるのか?」
「善処致します」
……微妙な返答だな。帰ってルルとナナミに相談してみよう。
「今、何時だ?」
「ミンミンでは今の時間帯を『アチ』と呼びます。アチ(海鳥の名前)が盛んに鳴き交わし、
……観光ガイド並みだな。
「翻訳機能は?」
「音声にて対応可能です」
「文字変換は?」
「マスターのデバイスに、ソフトのインストールが可能です」
まじで!? めっちゃ便利!! もっと早く出会いたかった!!
久々に文明の利器に触れ、暴力的なまでの便利さに、なんだか泣きたくなってきた。今までの苦労はなんだったんだよ……
若干自暴自棄になり、ダメ元で聞いてみる。
「ナナミとハナは、元の姿に戻れるのか?」
「その可能性は高くはありません」
えっ……?
「俺とハル、クルミも獣の人になるのか?」
「いずれ時が来れば」
……答えてくれんの?
「俺たちは地球に戻れるのか?」
「……戻りたいのですか?」
……お前、いったい何者……なんだ?
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