第十四話 ドローン 其ノ二
「ここは……どこなんだ?」
「現在地をおこたえします。現地名『ミョイマー地方』。人口五百名程度の『ミンミン』という街の近くの海岸です」
違う。俺が……俺たちが知りたいのは、地球から見たパスティア・ラカーナの場所。
他の星なのか、異世界なのか、異次元なのか。それとも実は『地球のどこか』なのか。
「なんだか、ずいぶんと
ナナミの抱いた違和感は、俺も感じている。
『現地名』。他に呼び名がなければ、こんな言い方はしない。どこで、その呼び名が使われているのか? それはこのドローンが属している場所。そういう事だろう。
情報の正確さから『遥か何百年前の遺物説』もないかも知れないな。
だが、うっかり情報を漏らしてしまったフリをして、俺たちのミスリードを誘っているのかも知れない。
これは油断できない。
人工知能との心理戦なんて、ガラじゃないんだけどなぁ。とりあえず心して臨もう。
「地球と、パスティア・ラカーナの関係性は?」
「その質問へのこたえは、機密事項に抵触します。セキュリティの解除が必要です」
だよなぁ。うーん……。
「あなたの所属機関は? 所有者がいるの?」
「その質問へのこたえは、機密事項に抵触します。セキュリティの解除が必要です」
「セキュリティの解除条件は?」
「規定のデバイスによるアクセスと、個人情報の提示により、第一段階を解除致します」
「デバイスって、スマホで良いのかな?」
ナナミが腰の物入れから、ビニール袋入りのスマホを取り出しながら言った。
「『規定のデバイス』だからなぁ。こいつからしたら四十年以上前のスマホだぞ?」
時間軸がズレているのは、俺たちとさゆりさん、クルミも同じだ。さゆりさんと俺たちは二十年近く、クルミとは二年のズレがある。
とは言いつつも、試してみる価値はある。
俺たちのスマホは、通信機としての役割を果たさなくなって久しい。それでもカメラやメモ機能、ライト、計算機は今でも便利に使っている。
何より俺たちとナナミを、最初に繋いでくれた恩がある。俺もナナミも、普段は持ち歩かない程に、スマホは大切にしている。なんせ壊れたら、そこでアウトだからな!
ちなみに俺たちが地球から持ち込んだ物で、一番便利なのは、やはりスマホだ。二番目はジッパー式ビニール袋、三番目は保冷・保温バッグだ。保冷・保温バッグは、教会では『魔法の袋』と呼ばれ、重宝されている。
俺のスマホをナナミから受け取り、ドローンに提示する。壊さないでくれよ?
スマホを持って近づくと、ドローンが銀色卵の頭頂部分に、ちょこんと着地した。機体の四隅にプロペラが付いていて、中心部に可動式のレンズ。外見上は俺の知っているドローンと、大きな違いはない。
ドローンから、マジックハンドのような物が伸びて、銀色卵の頭頂部に差し込まれる。
『ピピピ、ピロロロロ』という、電子音と共に、銀色卵に無数に走る切れ込み部分が、青く点灯した。
「ふわぁ〜! 光った! へぇ! こういうSEって、四十年後でもあんまり変わらないんだねぇ!」
ナナミが、またハナの声真似をして言う。緊張感が途切れるから、やめて欲しい。
『ウィーン』という作動音と共に、銀色卵の側面から、引き出しのような物がせり出してきた。
「液晶パネルを上にして置いて下さい』
『液晶パネル』ね……。
日本語の音声はもちろん、俺たちの知っているドローンの形状やSE、『デバイス』や『液晶パネル』という聞き慣れた名称。
その全てが、ドローンが作られたという2063年に繋がっていても不思議ではない。
ドローンの音声の、全てを人工知能が対応しているとしたら、確かに高性能だ。だが、それでもパスティア・ラカーナに飛ばされて来た時のような、開いた口が塞がらないような驚きはない。
……なんて事を考えながら、ドローンの指示に従って、スマホを置く。引き出しがスーッと引っ込んでしまった時、若干の不安を覚えた。
スマホに、知られて困る個人情報は入っていない。地球にいた頃の住所や暗証番号などは、この地では何の意味もないものだ。
三十秒程待つと、銀色卵から『ポーン』という、さっきドローンから聞こえたのと同じ告知音が鳴った。
シュッと引き出しが、スマホを載せてせり出して来る。
「確認が終了致しました。『二ノ宮ヒロト』様。当機はあなたをマスターと認定し、指揮下に入ります」
はぁ?! 何だって?
「セキュリティの権限は、第一段階のみ解除されました。マスター、当機は『P-350R TYPE-A』。指示をどうぞ」
あ、あ……開いた口が……塞がらない。
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