第十話 耳なしの船? 其ノ二

「飛ぶとしたら、ジェットエンジンなのかな? あ、でもから、プロペラ出て来そうじゃない?」


 ナナミが銀色卵の真ん中あたりにある、円形の切れ込みを指差して言った。


「変形合体とか、しそうだよなぁ」


「あ、しそうしそう! ロボになったらハルが喜ぶね!」


「ああ、ハナも大喜びするし、俺も喜ぶぞ!」


 二人で軽口を叩きながら、未確認飛行(するかも知れない)物体を、調べていく。


 ナナミが一緒だというだけで、どうしてこうも心が軽やかになるのだろう。


 俺が両手に抱えていた荷物を『ヒロくんはしょうがないなぁ』と片方(あくまで軽い方)引き受けてくれる。ポンポンと背中を叩いて『少し休もうよ』と笑う。


 それだけで、俺はどこまでも歩いて行けるような気持ちになる。ナナミがいる日常が、たまらなく愛おしい。



「いつから、ここにあるんだろう?」


「うーん。普通に考えたら『耳なしがいた頃から』よね。でも何百年も、全く劣化しないとかあるかなぁ」


「又は、今も使われている可能性」


「転移者じゃない耳なしが、今もパスティア・ラカーナにいるって事?」


「いつでも来られる場所に、いるのかも知れない」


 自分で口にした言葉で、ゾクリと肌が泡立つ。生き物としては、この地の人たちより、耳なしの方が自分に近いはずなのに。


 理解が及ぶからこそ、危険だと感じてしまう。



「コレ、使えたら便利だろうねぇ!」

「馬車での旅も、あくびに乗って旅するのも楽しいぞ?」


 パスティア・ラカーナへ来てから、ナナミはミンミンの街からほとんど出ていないからなぁ。


「うん、楽しそう。でも『茜岩谷サラサスーンまで、ちょっと行って来る!』って出来そうじゃない?」


 機械なら疲れ知らずだから、休まず進めるし、飛べるなら最短距離を行ける。この銀色卵が、乗り物だと断定出来たわけではないけれど、あくびよりは速いかも知れない。


「あっ!! そうだ!」


 自分のスマホで、銀色卵をカメラに収めていたナナミが、突然声を上げた。


 俺は読み取り装置とか、集音マイクとか、タッチセンサーとか、外部からアクセス出来そうな箇所を探していた。


 ちょうど砂浜に面している部分を覗き込んでいたので……その声に驚いて、頭を思い切りぶつけた。


 うん……強度も申し分ないし、海水での劣化の心配もないようだぞ!


「そういえば、ヒロくんに手紙が届いていたの!」


 ……それはまた……大事件だな!



▽△▽


 結局、銀色卵の正体が何なのか、動くのか壊れているのか、危険なのかそうでもないのか……。今のところ、何ひとつわからないままだ。外部からアクセスできそうな箇所も、見つからなかった。



 しばらくして、駆けつけてくれたルルや自警団の人たちの手で、銀色卵は小舟に乗せられ、海岸まで運ばれた。意外な事に、大人二人ほどで持ち上がる程度の重量だった。


 街の人たちの中にも、この物体の正体を知る人はいなかった。巨大原生生物の卵ではないようだ。



 街の中に運び込む事は、さすがに止めておこうと言う意見が多く、子供たちの海岸の秘密基地である洞窟に置かせてもらう事になった。教会と自警団が共同で管理する。


 そのため、しばらく子供たちは、海岸立入禁止になってしまった。せっかく海の季節なのに、なんだか申し訳ないな。


 まだまだ調べたい事はあったけれど、俺に届いた荷物が気になって、一旦街へと戻る事にした。



 教会への階段をナナミと二人で登って行くと、途中の踊り場でハルとラランが敷物の上に正座していた。頭の上に皿を載せて、二人とも涙目だ。


 教会の子供たちの伝統的な『お仕置き』なのだそうだ。


「私たちの頃はお皿の中に、水で溶いた辛味噌が入っていたのよ?」


「俺なんか、生きたムカデが入った籠を載せられた」


 ルルとカミューが、なぜか得意そうに言う。


 お前ら、どんなオイタしたんだよ……!


 まあ、今回は二人が悪い。しばらく反省してもらおう。


 俺とナナミが、助けてくれないのを悟った二人がうな垂れる。あ、皿落としたら正座の時間が延びるらしいぞ? 頑張れよ!


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