第十一話 手紙 其ノ一
俺宛ての荷物は、トルルザの街に住んでいるロレンのお母さんからだった。
当然だが、俺たちがミンミンの街にいる事を知っているのは、俺が居所を知らせた人たちだけだ。
ミンミンの街に着いて、ナナミと再会できた時、俺とハルは何通かの手紙を書いた。
大岩の家族宛て、キャラバンの連中宛て、シュメリルールの画材屋のトリノさん、赤ん坊熱に罹った時に世話になった、ひまわり少女チャーリア、トルルザの教会のアトラ治療師長……。そしてロレンの母親、レイラさん。
全員が、俺たちの旅のゆく末を、心配してくれている人たちだ。
ミンミンの街から一番近いトルルザから、最初の返信が届いたのは、ある意味妥当と言えるだろう。
レイラさんには、俺がトルルザの教会に監禁された時、子供たちを保護してもらった。とても二人に親身になってくれて、俺のために教会に殴り込もうとしていたらしい。
ハルの話の話を聞くにつれ『ロレンのお母さんだなぁ』と思う。ロレンも、如何にもキレ者の商売人然とした様子の割に、情に脆く身内にも弱者にも甘い。
結局色々あって、俺はレイラさんとは顔を合わせる事なく、トルルザの街から逃げ出してしまった。
一度ちゃんとお礼に伺いたいのだけれど……ザバトランガ地方で耳なしは『笑いながら人を殺す悪魔』だからなぁ。
色々物思いに耽りながらも、丁寧に荷物を開く。
まず目についたのは、いくつもの手紙の束だった。レイヤさんが窓口になって、取りまとめて送ってくれたらしい。
差出人の名前を確認して、思わず胸が熱くなる。懐かしい名前の、オンパレードだ。
この束はキャラバンの連中だ。ロレン、アンガー、トプル。この
へぇ……ガンザは達筆だな! この飾り文字みたいなのはヤーモなのか?
こっちの日本語は、ああ……大岩のみんなだ! リュートにさゆりさん、クルミ、爺さんまで苦手の日本語で書いてくれている。
俺はもう嬉しくて、我慢出来ずに窓から顔を出して、大声でハルを呼んだ。
「ハル、ハル! ハナとお母さん呼んで来てくれ! みんなから手紙が届いたぞ!!」
「えっ? みんなって、大岩のみんな?」
ハルが、頭の皿を落としながら言った。
「ああ! キャラバンの連中からも、チャーリアやレイラさんからも来てる!」
「えーっ!! 早く読みたい! でも……ぼくお仕置き中だよ、どうしよう?」
「ハハッ! そんなの後回しだ! 早くみんなで読もう!」
▽△▽
拝啓、お元気ですか?
こんな書き出しで日本語の手紙を書くなんて何十年ぶりかしら。なんだか照れ臭いわ。でも、とても嬉しい。
まずは、ナナミさんと会えた事、本当に良かった。ヒロトさんとハルくんならやり遂げると、うちの家族はみんな信じていましたよ!
あなたやハルくんが、どんなに頑張っていたか、いつかナナミさんに会えたら話してあげたいわ。
帰って来たら、たくさんご馳走を作って、家族が揃ったお祝いをしましょうね。
こちらでも、色々な事がありました。大切な事から書いてみるわね。
夏の初めに、リュートとラーナに元気な赤ちゃんが生まれました。目はラーナ、鼻と髪の毛はリュートにそっくりな、とても可愛い女の子です。
名前はフィリカ(
かく言う私もクルミも、フィーに夢中なんだけどね!
ああ、そうそう。フィーは耳なしなのよ。リュートもラーナも、その可能性の事は話し合っていたらしくて、オロオロしてしまったのは私だけだった。
隔世遺伝って事かしらね。なんだかラーナに申し訳なくて、謝ってしまったら家族全員に囲まれて、こっ
『初めてフィーを見た時からずっと、私はただの一度も困ったりしていない。嬉しくて、可愛くて、限りなく愛おしい』
ラーナがいつも通り、古めかしい南の島国の言い方で慰めてくれた。私もしっかりしなくちゃダメね!
ラーナがひどく無口だったのは、あの喋り方を気にしていたみたいよ? 最近はずいぶんお喋りになったわ。小さくてふんわりと笑うラーナがあの口調で話すと、なんだかとても微笑ましい。
クルミもとても懐いていて、仲の良い姉妹みたい。家族が増えて大岩の家は賑やかになった。とても楽しく暮らしているわ。
クルミは相変わらず、とても元気で騒がしくて、そしていつも踊っている。
最近はラーナの故郷のダンスや、チョマ族のダンスを取り入れた創作劇みたいな事をやっていて、キャラバンの人たちが来ると披露したりしているの。物語になっていて、とても素晴らしいのよ!
ああ、まだまだ伝えたい事がたくさんあるわ! これはとても幸せな事ね。
ロレンがヒロトさんたちがいる街に、向かうと聞きました。うちからはカドゥーンとクルミが同行する予定です。
リュートも、とても行きたがっていたけれど、さすがにラーナとフィーは連れて行けないから諦めたみたい。私も少し悩んだけれど、大人しく留守番する事にしました。
早くみんなに会いたいわ。ハルくんとハナちゃんの顔が見たい。ナナミさんに会うのもとても楽しみです。
ミンミンの街の夏は、暑いと聞いています。身体を大切にして、一日も早く元気な顔を見せて下さい。
会える日を、心から楽しみにしています。
今井さゆり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます