第6話

 往診が済んで医師が帰ったあと、医師の「注射をしたから、気分がよくなるよ」と言う声に安心したのか、母はしばらく目を細めて私の顔を凝っと眺めていた。


 きょうは普段より顔色がいいようだ。咽喉が渇いたと言うので、枕元の吸飲みを含ませると、母は目を瞑ったままおいしそうに飲んだ。

 

「そ、と、は?」

 障子のほうに顔を向けながら訊く。天気を気にしているのだ。

「きょうも雪模様よ。見たいの?」

 と、母の顔を覗く。母は、ゆっくりと頷いた。


 障子を半分ほど開ける。行き場を失っていた冷気が、畳を這うように座敷に進入する。母を気遣って振り返る。母は寝床から見える眩しい景色に目を細めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る