第5話

 いつもそこまで考えて止まってしまう。そのたびに、所詮時代が移るのだからいま考えても仕方がない、と自分を宥める。


 そんな自分のことよりも、あとで自分が後悔しないために、いま出来ることをなし遂げるのが先決だと思っている。


 母の食事は、ほとんどお粥かうどんなどの麺類である。その他に豆腐や野菜の柔らか煮を添えるが、それもほんのわずかな量で済んでしまう。最近はさらに口にするのが少なくなったようだ。


 今朝も昨日と同じように天気がすぐれない。


 四日続けての雪模様で洗濯物が溜まっているのが気になる。


 きょうは午後から往診のある日だ。朝食の後片づけを急いで済ませると、雪が烈しくならないようにと祈りつつ、母が深い眠りに就いているのを見届けて買い物に出る。


 昼間はふたりだけなので母の眠っている間にスーパーに走らなければならない。主人や子供たちも嫌な顔せずに買い物に協力をしてくれるものの、生活必需品の細かな物まではなかなか伝え辛いものがある。


 駆け足でスーパーから戻ると、襖を細めに開けて母の様子を覗う。変わりない寝顔にほっと胸を撫で下ろし、買って来た食材のほとんどを冷蔵庫に収める。


 蛇口を捻って、コップで受けた水道の水を一気に飲む。気懸かりになっていたことが一緒に流されて行くように思えた。

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