第3話天と地で
突然、目の前に一筋の光が差してきたと思うと、次第に空が晴れて霧か靄のようなものが嘘みたいに消えてゆく。
目の前は、暖かい日の光と美しい青空。眼下には緑の山々がどこまでも連なり、遠くには街のようなものが見えた。
「……私、空を飛んでる!?」
M:○、のイーサン・ハントみたいでちょっぴり嬉しい。
嬉しいが、困っことにまだ自分は下降し続けている。夢か現実かわからないが、このまま落ちるとやっぱり自分は死ぬのだろうか?
(これは夢ぇ?夢じゃなかったらいったい何だっていうの!?)
時々、空を飛ぶ夢を見ることがある。空を飛ぶ夢は現実逃避と言われるが。
今、現実逃避真っ只中!?
ガォゥゥゥ――
また唸り声が響く。
今度は自分のすぐ隣にいるかと思う程に、はっきりと聞こえた。
「さっきからいったい何!?」
夢なら早く覚めて欲しいと思うが、夢にしては妙に現実味がある。
全身が、寒さと風を感じ、目が光の眩しさ感じている。
(やっぱり夢じゃないみたい…… 私、何処へ行くんだろう!?)
美しい青年がただ独り、馬で行く。
谷川の流れを見て、ふと歩みを止めた。
崖下から眺める景色はさながら 山水画のよう。
頬を撫でる風が心地良く感じる。
(ここの風景が良い……)
普段は仕事で伯父の補佐し、その合間に書物を読み、武術の鍛練に勤しむ毎日を送っている。
たまにはこうして絵筆を手に、目の前の風景を描くのが良い気晴らしになる。
描き始めると面白いように筆が動き、あっという間に下書きが完成した。
その直後―― 側の木に繋いだ馬の耳が急に、忙しなく動き始めた事に気付いた。
(何かがこちらに向かってやって来る……)
そのうち、馬は怯え嘶きながら蹄で地面をしきりに掻き始めた。
これはまずい、とすぐさま馬の側に駆け寄り、木に繋いだ手綱をほどき、馬の尻を叩いて走らせると、自分は腰に差している剣を抜き、身構えた。
僅かな音、気配さえも逃すまいと全ての感覚を研ぎ澄ます。
(やはり来たか……)
ガルルル――
低く唸りながら、木々の影からゆっくりとその姿を現したのは一頭の大きな虎。
(うかつだった!どうやらこいつの縄張りに入ったらしい…… 足跡の有無を確認しなかった…… ここは覚悟を決めるしかあるまい!)
虎は堂々とした体躯。
慎重に、こちらに向かって徐々に距離を縮めようとするが、こちらも負けじと虎から視線を外さなぬよう剣を構え一定の距離を保つ。
背後は切り立った崖。
追い詰められたら終わり。
(フッ、背水の陣か……)
最悪の状況だというのに何故が笑みがこぼれる。
突如、上空から突風が吹いてきたかと思うと人の声が聞こえた気がした。
「と……ま……らな………い……」
耳を澄ますと微かだが、やはり人の声。
(いったい何処からなのだ?まさか……)
そのまさかだった。
上を見上げると確認できないが、何かが降ってくるのは間違いない。
「危ないぃぃ!!そこ退いてぇぇ!!!」
この全く予想だにしなかった謎の助っ人?の登場の仕方に、一瞬青年は戸惑った。 その隙を虎は見逃さない。
これ幸い、と恐ろしい唸り声をあげて青年に跳びかかった。
青年の方は、これに直ぐ様反応し、おそらくその場所に居たら虎に組伏せられていたであろう場所から身体を低い姿勢にすると、素早く跳ぶようにして身をかわした。
勢いが余った虎は自分から宙に投げ出される格好になっていた。
流石の虎もヤバいと思ったことだろう。
そこへさらなる不幸が。
「やっぱりぃぃ。落ちるぅぅ~!嫌ぁぁぁ~!!」
未確認の―― 叫ぶ人のようなもの?が、この気の毒な虎の背に落ちて来た。
こうなると共に落ちるしかない。
哀れ。虎も人も一緒に崖下を流れる河に落ちていった。
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