第3話 先読み2
犯行の前日。正確には、午後の三時頃だ。太陽の光が眩しく光る中、ティアナは二人分の紅茶を用意した。カップに注がれる美しい紅茶。
紅茶の表面からは湯気が立ち上り、それに乗せて華やかな香りを漂わせた。まるでお花畑にいるように。その香りを嗅いだ二人も、嬉しそうな顔でそれを楽しみ、そして、うっとりした。
町の空気がスモックで汚されても、この香りさえあれば生きていける。彼女達の生きる世界は、科学の発展と引き換えに様々な問題が出て来た時代だった。
そんな時代に現れた快盗少女は、正に時代の光と言って良いだろう。探偵のロードが夜空を照らす月光なら、彼女達は社会そのものを照らす太陽光なのだ。
テーブルの上にカップを置く。
「予告状を出してしばらく経つけど。彼等は、町の警察に協力を求めていない」
「そうみたいね」と、ロナティ。「あたしの予想では、真っ先に頼ると思ったけど」
「聖杯の存在は、文字通りの秘密だからね。外部の人に知られるわけにはいかない。教皇様はきっと、教会警察だけに警備を任せる筈。『今回の事は、お前らだけで対処しろ』とか言ってね」
「無謀だわ。警備のプロに任せるならまだしも、素人の集団に警備をやらせるなんて。甘いにも程がある。彼等は、聖杯が惜しくないのかしら?」
「惜しくないわけないよ。聖杯は、教会の宝だからね。絶対に盗られたくない」
「だったら」
「教皇様は、プライドの塊」
「え?」
「『自分の宝は、自分で守る』と言う。ある意味では、責任感の強い人だけど。今回は、その責任感が徒になった」
ティアナは、カップの紅茶を啜った。
「今回の獲物はたぶん、楽勝だよ。教会警察は」と言って、少し黙るティアナ。「別の場所に宝を移す筈だから。私の事を警戒してね。彼等は、建物の中に罠を張っている」
「あなたを捕まえる罠、を?」
「うん。彼等はまず、別の場所にお宝を移して。お宝の場所は、その警官達だけが知っている。教皇様に言ったら、フフフ。色々と面倒な事になるからね。あらゆる事を内々に。彼等は少ない知恵を使って、秘密の場所にお宝を隠してしまうんだ。私は、その事に驚き」
「慌てふためく。『その隙に捕まえよう』ってわけね?」
「そう言う事。私はロナティから貰った情報を頼って、お宝が置いてある教皇庁の地下室まで行く。そこにお宝があると信じてね。でも」
「そこにお宝は無い。待っているのは、教会警察の警官達」
「そう。私は何もない場所に誘き出されて、彼等に『パクッ』と食べられちゃうわけ。まるで鮫に食べられる小魚のように」
「なるほど。まあ、作戦としては悪くないけど」
ロナティは前のめりになり、ティアナの目をじっと睨んだ。
「で」
「ん?」
「そこまで分かっていて。あなたはどうやって、お宝を盗むつもりなの?」
ティアナは、その質問にニヤリとした。
「それはもちろん、いつもと同じだよ。いつもと同じように変身して」
の続きは、十分すぎる程分かっていた。
「上手い具合にやるのね?」
「そう言う事!」
「はぁ」
ロナティは呆れ顔で、カップの紅茶を啜った。
「お疲れ様」
「いえいえ」
ティアナもまた、カップの紅茶を啜った。
「これが私の仕事ですから!」
二人は残りの紅茶を啜り、午後の時間を楽しんだ。
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