快盗少女綴り2:神の聖杯

第1話 神の聖杯

 神との杯に使われた秘宝……通称「聖杯」は、教会の総本山、教皇庁に置かれていた。聖杯の守りは、厳重。それを奪おうとした物は、末代まで神に呪われると言う。つまりは、曰く付きの代物だ。


 聖杯の管理者である教皇も、その聖杯を守るために必死になっている。「これは、神が地上にもたらした救いである」と。聖杯の存在は……その歴史に通じる者以外は、文字取りの極秘扱いになっていた。

 

 午後の光が、部屋の中を照らす。部屋の中には、お洒落なテーブルやその他諸が置かれている。まるで主人の性格が表すかのように。テーブルの上に置かれた朝刊(朝刊には、ティアナの記事が書かれていた)も……グチャグチャではないが、少々丸まった形で置かれていた。


 部屋の扉が開く。

 扉の向こうに立っていたのは、情報集めから帰って来たロナティだった。

 

 ロナティはテーブルの上に聖杯の資料を置くと、不機嫌な(と言うよりは不安な)顔で椅子の上に座り、ティアナの顔に視線を移した。


「別に神を信じるわけではないけどね。この獲物は、止めた方が良いんじゃないかしら? 今後の事を考えても」


「確かにね。教皇庁と言えば、教会のトップだし。そこから物を盗んだら。タダでは、済まされない。天の神様にも怒られちゃうね」と言いつつ楽しげに笑うティアナ(彼女は、いつもの部屋着を着ていた)だったが、ロナティの方は至って真剣だった。


「ティナア!」


「ごめん、ごめん。笑い事じゃなかったね。確かにマズイとは思うよ? 今までは、お金持ちの家しか狙わなかったからね。世間のみんなを喜ばせるために。……でも」


「でも?」


「最近の教会は、ちょっと許せないかな?」


 ロナティは、その言葉に眉を上げた。


「どこら辺が許せないの?」


「政教分離を掲げているくせに。裏では、政府の人と馴れ合っているから。お金だって、たくさん貰っているしね。それも私達の払った税金だよ?」


 ティアナは、テーブルの上に頬杖を突いた。


「そんな人達に神の聖杯は任せられない。私だったら、即没収だね」


 クスッ、と笑うティナ。


 その笑顔を見て、ロナティは「やれやれ」と嘆息した。


「即没収とか。あなたは、神様にでもなったつもりなの?」と言ったが、その口元は若干笑っていた。「まあ良いわ。それが快盗少女だからね」


「教皇庁の地図は? 聖杯の場所は、調べてある?」


「一応ね。教皇庁の地図は、これ」


「ありがとう。それで聖杯は?」


「聖杯は、教会の地下室に隠されている。外から来た人に見つからないように」


「なるほど。隠し場所としては、及第点かな? そこならまず、外の人には気づかれないし。地下室に行くには、どうすれば良いの?」


「さあ? あたしが調べられたのは、そこまでだから。地下室の場所までは、分からないわ」


「そう。まあ、建物の中に入れば分かるでしょう。そこには、教会の関係者もいるし。その人達から情報を集めれば」


「簡単には、口を割らないと思うけどね」


「フフフ」と、笑うティアナ。「そこは、快盗少女の腕だよ」


 ティアナは得意げな顔で、その目をキラキラと輝かせた。


「教皇庁の中にいる人は、調べた?」


「これ」と言って、テーブルの上に資料を出すロナティ。「関係者の情報が載っている」


「ありがとう」


 ティアナはその資料を読み、嬉しそうな顔で「ニコッ」と笑った。


「これで教会の中に入り込める」と言ってから、テーブルの上に資料を置いた。「あとは、予告状を書くだけだね」


 彼女は椅子の上から立ち上がって、教皇庁宛てに犯行の予告状を書きはじめた。


「予告状

 親愛なる教皇様へ。来たる〇月△日、あなた達が『神』と崇める聖杯を頂きに参上します。あなた達は、神の領域を侵しました。自分達の私腹を肥やすために、聖なる領域を侵してしまったのです。私には、それが許せません。だから、神の聖杯を没収します。今のあなた達には、その聖杯は相応しくありません。

                                快盗少女X」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る